リーマ加工は、ドリルだけでは出せない精密な穴径を得るための仕上げ加工だ。20年近く外部設計者として大手メーカーに常駐してきたが、新人設計者がリーマ穴の公差をH7とだけ書いて、下穴径・面取り深さ・面粗さ指示がスカスカというのを何度も見てきた。リーマは「ドリル下穴の延長」ではなく、独立した工程として段取りを組むべきものだ。本稿では現場目線でリーマ加工の基礎、下穴・チャッキング・潤滑剤・テーパリーマの使い分けまで整理する。
リーマで出せる精度——H7はどこから来るのか
H7公差は、リーマ加工の代名詞のようなものだ。φ10H7なら+0.018/0で、ドリル単独では絶対に出せない。リーマで0〜+0.005の安定加工が可能だ。私の経験で、HSSリーマ(三菱マテリアル・OSG)で常温安定で出るのはH7、超硬リーマでH6まで狙える。
| 工具 | 公差等級 | 面粗さ | 加工速度 |
|---|---|---|---|
| HSSハンドリーマ | H8 | Ra3.2 | 5〜10m/min |
| HSSマシンリーマ | H7 | Ra1.6 | 10〜15m/min |
| 超硬マシンリーマ | H6〜H7 | Ra0.8 | 15〜25m/min |
| ブローチリーマ | H6 | Ra0.4 | 量産専用 |
H6を超える精度(φ10H6で+0.009/0)は、ホーニング・ボーリングに切り替えたほうが安定する。リーマで無理に攻めると、寿命が極端に落ちる。私が客先で量産用Z軸ガイド穴φ12H6を設計したとき、加工屋から「H6はリーマで安定しません、ジグボーラかホーニングで」と提案され、結局NSKの軸受嵌めをH7+選別嵌合に変更した経験がある。
リーマ加工の精度は機械の精度に依存する。汎用ボール盤(三井精機・牧野フライス)で手送りでリーマ立てると、心ずれ0.02〜0.05mmが出てH7のはずがH9相当になることもある。マシニング(マザックV-414・オークマMB-46)で同期送りなら、H7は安定する。
下穴径——「リーマ径マイナス0.3」が暗黙ルール
リーマの下穴径は、「リーマ径×0.97〜0.98」が基本目安。φ10H7リーマなら下穴φ9.7〜9.8。これより小さければトルクが上がり寿命が縮む。大きすぎればリーマが食い付かず、内径がガタついて寸法が安定しない。
| リーマ径 | 推奨下穴径 | 削り代(片肉) |
|---|---|---|
| φ5 H7 | φ4.85 | 0.075mm |
| φ8 H7 | φ7.8 | 0.10mm |
| φ10 H7 | φ9.8 | 0.10mm |
| φ12 H7 | φ11.8 | 0.10mm |
| φ20 H7 | φ19.7 | 0.15mm |
| φ30 H7 | φ29.5 | 0.25mm |
ステンレス・チタンなど加工硬化材は、削り代をやや少なく(0.05〜0.08mm片肉)にする。多すぎるとリーマの刃先が硬化層に食い込み、ビビリと刃欠けを起こす。
新人設計者が「リーマ加工は加工屋が下穴の判断するでしょ」と思っているケースが多いが、加工指示書ベースで仕事をする加工屋は、設計者が指示した寸法しか加工しない。下穴径まで指示するのが本来の設計者の役割だ。
チャッキングの設計——リーマは「振れ」に弱い
リーマ加工で寸法がバラつく最大の原因は、チャッキングの振れ(芯ずれ)だ。マシニングセンタの主軸振れが0.02mmあれば、リーマ穴は0.04mm以上拡大する(双方向に振れるため)。
オークマMB-46のような新しいマシニングは主軸振れ0.005mm以下が普通だが、年式古い汎用フライスでは0.03mm出ることもある。設計者は加工機の選定にまでは口を出せないが、「H7リーマ穴3個以上」の図面を投げるときは加工屋に「マシニングで加工してください」と一言添える価値がある。
チャッキング時の振れを吸収するには、「フローティングホルダ」と呼ばれるリーマ専用ホルダ(ニッケン精機・MSTコーポレーション)を使う。0.1〜0.3mmのラジアル方向フローティングで芯ずれを吸収する。汎用リーマで使うと寸法が安定する。
私は新人時代、フローティングホルダの存在を知らず「H7なのに寸法バラついた」と加工屋にクレームを入れて、逆に教育を受けた苦い経験がある。
テーパリーマ——テーパピン穴の専用工具
テーパリーマは、テーパピン穴(JIS B 1352)を加工する専用工具。1/50テーパ(モースNo.0〜6)が主流。テーパピンは2部品の位置決め固定に使う締結要素で、機械装置の組立では今でも現役だ。
| サイズ | 大径 | 小径 | 長さ | 用途 |
|---|---|---|---|---|
| テーパピンφ3 | 3.0 | 2.46 | 27 | 軽荷重部位 |
| テーパピンφ5 | 5.0 | 4.20 | 40 | 中荷重 |
| テーパピンφ8 | 8.0 | 6.96 | 52 | 装置架台 |
| テーパピンφ10 | 10.0 | 8.80 | 60 | 重量機械 |
テーパリーマ加工の鬼門は「下穴の段取り」だ。テーパ穴は途中で径が変わるので、ドリル下穴も2段(or 3段)にする必要がある。φ8テーパピン穴なら、まずφ6.8ドリル→φ7.8ドリル→テーパリーマと3工程かかる。1穴300〜500円の手間賃になる。
設計者がテーパピンを使う場面は「位置決め精度0.02以下が必要」「ばらしと再組立で再現性が必要」のときに限定すべきだ。安易にテーパピンを並べると、加工コストが跳ね上がる。私は「テーパピンは1組立に4本まで」を内規にしている。
潤滑剤——リーマも油選びで寿命が3倍違う
リーマは切削速度が遅い(5〜25m/min)が、内径仕上げという性質上、潤滑剤の影響を強く受ける。ドリルやタップと違って切粉が短く逃げにくいので、油の浸透性が重要。
| 材質 | 推奨切削液 |
|---|---|
| SS400・S45C | 水溶性 7〜10%(濃いめ) |
| SCM440 | 不水溶性切削油 |
| SUS304/316 | 不水溶性 + 極圧添加剤 |
| アルミ A2017/A5052 | 灯油希釈型(ケロシン系)or 専用油 |
| 鋳鉄 | 乾式 + エアブロー |
ステン穴の場合、ユシロ「ユシロケンSE」やイデミツ「ダフニーカット」のような塩素フリー高潤滑油を使う。塩素系は環境規制で減ってきたが、SUS316L・チタンでは依然として高性能。
アルミのリーマ加工で凝着(むしれ)を防ぐには、灯油希釈の専用潤滑油が定番。最近はOSG「LUBE-MAX-AL」のようなアルミ専用が選ばれる。設計図面に「アルミ加工はアルミ専用クーラント使用のこと」と注記しても良い。
マシンリーマとハンドリーマの違い
マシンリーマは機械送り専用で、シャンク(柄)はストレートまたはMT(モールステーパ)。ハンドリーマはストレートシャンクの首部に四角穴があり、タップハンドルやリーマハンドルで手回しできる。
現場では、現合(現物合わせ)で穴を仕上げるときにハンドリーマが活躍する。装置架台の位置決めピン穴は、組立工程で穴の通り具合を見ながらハンドリーマで微調整するのが鉄則。マシン加工だけだと、組立時の累積誤差で穴が通らないことがある。
設計者がこれを知らないと、組立業者から「現合リーマ仕上げの指示がないので、加工単独で全寸法を出してください」と難色を示される。本来は組立優先のためにハンドリーマ仕上げを許容するべき部分も、フル加工指示で過剰コストになる。
ボーリングとの使い分け——φ30以上は要検討
リーマで加工できる径の上限は、実用的にはφ20〜25が目安。それ以上は工具コスト・段取りコストが跳ね上がり、ボーリング加工(ジグボーラ・マシニングのボーリングサイクル)が現実的になる。
| 穴径範囲 | 推奨工法 |
|---|---|
| φ3〜φ10 | リーマ一択 |
| φ10〜φ20 | リーマ または ボーリング |
| φ20〜φ50 | ボーリング |
| φ50以上 | ボーリング + ホーニング |
ボーリングはφ100超でも対応可能で、精度も同等以上(H6)が出る。ただし段取り時間が長い(切削条件出し・刃合わせ)ので、1〜2個の単発加工では割高。量産100個以上ならリーマ、単発ならボーリングが目安。
油圧シリンダの内径(φ50〜φ150)は、ボーリング+ホーニング仕上げで内径H7+ Ra0.2が標準。設計者はシリンダ内径を「H8リーマ仕上げ」と指示してはいけない。
同心度・同軸度との関係——位置決め穴の本質
リーマ加工が選ばれる場面の多くは「位置決め精度を要求される穴」だ。リニアガイド取付ボルトのノックピン穴、サーボモータ取付フランジの位置決め穴、ジグ・治具の位置決めピン穴など。これらは穴径精度(H7)よりも、複数穴の同心度・位置度の方が重要になる。
例えばリニアガイド取付の位置決めピン穴が2箇所、200mm離れている場合、位置度公差φ0.05が指示されることが多い。これはマシニング(マザックVCN-510や三菱重工H-Plus)で同一段取り加工なら問題ないが、ジグボーラまたはNC精密加工が必要な精度。リーマ単独の問題ではなく、機械精度・段取り・冶具設計の総合精度になる。
新人設計者は「H7リーマ穴φ8」とだけ書くが、実際の機能要求は「2穴の位置度φ0.05」のはず。後者を明示すれば、加工屋は適切な工程順序を組んでくれる。
鏡面リーマ・特殊リーマの世界
最近は「鏡面リーマ」と呼ばれる超精密リーマがある。OSGや東芝タンガロイから出ているCBN(立方晶窒化ホウ素)コーティングリーマで、Ra0.2の鏡面仕上げが一発で出る。コストは超硬の3〜5倍するが、ホーニング工程を省略できるので、量産では総合コストが下がる場面もある。
油圧シリンダのピストン穴・空圧バルブのスプール穴など、シール性が要求される穴では鏡面リーマが活躍する。設計者が「シール性確保のためRa0.4以下」と指示すれば、加工屋は鏡面リーマ・ホーニング・ラッピングのいずれかを選択する。
特殊形状では、段付きリーマ(2段径を一発加工)・テーパリーマ(モーステーパ用)・ダイヤリーマ(石材・セラミック用)などがある。設計者がこれら特殊工具の存在を知っていると、設計の選択肢が広がる。
設計者が知っておくべきリーマ加工の常識
20年やってきて、リーマ加工で押さえるべきポイントを最後にまとめる。
1. 公差は最初からH7にする:H8でも実用差はほぼないが、加工屋はH8のときに「いつもの感覚で」H7相当に仕上げる。最初からH7指示で混乱を防ぐ
2. 面取りはC0.5以上:リーマ入口で食い付き不良を防ぐ。図面に必ず明記
3. 下穴径も指示する:「リーマ加工」だけだと加工屋判断で下穴が変わる
4. 深穴(3D超)はリーマで不安定:穴深さがリーマ径の3倍を超えるとビビリ・テーパが出る。設計時に短くする検討を
5. 量産は工具寿命を見込む:1000穴に1本のリーマ交換コストを部品単価に反映する
これらをチェックリスト化して、図面検図時に毎回確認する習慣をつけると、加工屋からの問い合わせが激減する。
新人時代、私は「リーマ穴」とだけ書いた図面を出して、加工屋から「下穴何mmで?面取りは?」と20件問い合わせを受けたことがある。あれ以来、リーマ加工の指示は「径・公差・面粗さ・面取り・下穴・深さ」の6項目を必ず書く癖をつけている。
失敗談——あるFA装置の試作で味わった苦汁
10年ほど前、ある精密FA装置のXYステージ設計で、リニアガイド取付ボルト穴の位置決め用にφ4H7リーマ穴を8箇所指示したことがある。下穴φ3.7、面取りC0.3、面粗さRa1.6と書いた。
ところが加工屋から戻ってきた現物を測定すると、φ4.05〜φ4.10。「H7のはずがバラついている、再加工してくれ」と問い合わせたら、加工屋が「下穴3.7だと削り代0.3mmで多すぎる。3.8で再加工させてください」と返答。
調べると、確かに下穴3.7だと削り代片肉0.15mm、これはH7リーマの推奨削り代0.05〜0.1の倍だった。リーマが食い込みすぎて拡大していたのだ。下穴を3.85に変更して再加工したら、φ4.005〜φ4.015で安定した。
このときから、私は下穴径の指示を必ずリーマ径マイナス0.15以下に抑えている。机上の計算と現場の実体には、こういう微妙な乖離がある。
リーマ寿命と再研磨——量産コストの分かれ目
リーマは超硬コーティング(TiAlN・AlCrN)で1000〜3000穴/本が現場の実用寿命。HSSなら200〜500穴。再研磨を3〜4回繰り返すと、径が0.05〜0.1mm細くなる(再研磨で逃げ角を作り直すため)。これがH7外れの原因になる。
量産品では「新品リーマ・再研磨1回・再研磨2回」で穴径管理が必要。加工屋によっては再研磨リーマで「H7規格内」を維持するために、削り代を微調整する。設計者がこういう加工現場の工夫を理解できていると、品質会議での会話がスムーズになる。
私が客先で量産品3000ロット/月のH7穴を担当していたとき、加工屋から「リーマ1本あたり1500穴で再研磨します。再研磨3回で廃却。月20本のリーマ消費、コストは○○円」と詳細を見せられたことがある。リーマ1本2万円、月40万円の工具費。1個あたりの工具負担が分かると、設計者は「H7をH8にできないか」「リーマ穴の数を減らせないか」と考えるようになる。
異種材リーマの注意点——複合構造での裏切り
最近、装置の軽量化で「アルミベース + 鋼ガイド」のような異種材合体構造が増えてきた。これにリーマ穴を通すと、両材料の硬さ差で穴径がバラつく問題が起きる。アルミ側で食い込んで径が拡大し、鋼側で食い込み不足で径が狭くなる。
対策は2つ。ひとつは「材料ごとに分割加工」(アルミと鋼を別々にリーマ加工してから組み立てる)、もうひとつは「中間材としての慎重な工具選定」(超硬コーティング+専用切削条件)。設計者が異種材構造を選ぶときは、加工屋にリーマ通し穴の可否を事前確認しないと、後で組立不能になる。
私が新人時代に経験した装置で、ジュラルミン(A2017)製ベースに鋼ピンを通すリーマ穴があった。リーマ加工後にピンが挿入できず、再リーマで対応したがアルミ側が拡大して0.05mmガタが発生。結局アルミ側にスリーブ(SUS304)を圧入する設計変更で対応した。異種材リーマは10年経った今も難題だ。
まとめ——リーマは「精度工程」と心得る
リーマ加工は、ドリルの延長ではなく独立した精度工程だ。下穴・チャッキング・潤滑剤・面取り・面粗さの全要素を設計者が把握して指示することで、初めて安定したH7穴が量産できる。
机上のCADで「H7」と書くのは10秒だが、現場ではそのために30分の段取り、3000円の工具、500円の油が動いている。設計図に書く一文字の重みを、加工現場と一緒に体感していくのが、機械設計者の成長の道筋だ。
リーマ加工は地味な工程だが、これを正しく指示できる設計者は加工屋から「分かっている」と一目置かれる。設計者としての信頼は、こういう細かい工程理解の積み重ねで築かれていく。20年やってきた今もなお、リーマ加工で新しい発見がある。それが機械設計の奥深さだと思っている。
設計×現場ラボ|sekkei-tech.com



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