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【設計者の言葉】現場で強い設計とは、作る人と直す人に優しい設計だ

設計者のキャリア

「強い設計」と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。強度計算で安全率を稼いだ設計か。最新のCADを駆使した複雑な機構か。私は20年、機械設計をやってきて、本当に強い設計とは別物だと考えるようになった。

現場で強い設計とは、作る人と直す人に優しい設計だ。

どんなに理論上美しくても、加工しにくければ現場で精度が出ない。組み立てにくければミスが起きる。壊れたときに直しにくければ、ライン停止が長引く。机上で完璧な設計が、現場で脆く崩れる場面を、私は何度も見てきた。今日は「現場で強い設計」とは何かを、具体的な経験から語りたい。


机上の正解と現場の正解は違う

設計者は図面の上で物事を考える。だが物は現場で作られ、現場で使われ、現場で直される。机上の正解と現場の正解は、しばしば食い違う。

大手メーカーに外部設計者として常駐していたとき、若い設計者が描いた構造を見て驚いたことがある。強度的には完璧、3Dモデル上の見た目も美しい。だが、ある部品を固定するボルトが、隣の部材に隠れていて、組み立て時に工具がまったく入らないのだ。

「これ、どうやって締めるの?」と聞くと、彼は固まった。3D空間の中で、工具のことまで考えていなかったのだ。CADの画面は、工具も人の手も表示しない。だから設計者は、画面に映らないものを想像する力を持たなければならない。

「作れる」と「作りやすい」は天と地ほど違う

その構造も、頑張れば作れないことはなかった。ラチェットレンチを斜めから差し込み、少しずつ回せば、時間はかかるが締められる。だが、作れることと作りやすいことの間には、天と地ほどの差がある。

作りにくい構造は、現場で必ずしわ寄せを生む。組み立てに時間がかかる。無理な姿勢での作業はミスを誘発する。締め付けトルクが安定しない。そして何より、現場の作業者が「この設計者の図面はやりにくい」と感じる。一度そう思われたら、信頼関係は崩れる。外部設計者にとって、現場の信頼は命綱だ。

作る人に優しい設計の具体

では、作る人に優しい設計とは具体的にどういうものか。私が現場で学んだことを挙げる。

工具が入る空間を必ず確保する

ボルト締結部の周りには、工具が動く空間が要る。ソケットレンチを差し込み、回す。スパナを振る。その物理的なスペースを、3Dモデルの段階で確認する。私は重要な締結部については、工具の動きを頭の中でシミュレーションするか、簡単な治具モデルを置いて干渉を確認する癖がついている。

これを怠ると、現場で「締められないボルト」が生まれる。締められないボルトほど、設計者として恥ずかしいものはない。

組み立て順序が成立するか確認する

部品Aを入れてから部品Bを入れる、という順序が物理的に成立するか。これも机上では見落としやすい。すべての部品が最終形では収まっていても、その状態に至る「途中の状態」が成立しなければ組めない。

製缶物の架台に複数の機器を載せる設計をしたとき、最後に取り付ける予定だった機器が、先に付けた配管に阻まれて入らない、という事態を経験した。完成図は完璧だった。だが組み立てのプロセスを追っていなかった。それ以来、私は組立図を描くとき、頭の中で実際に組む順序を一手ずつ追うようにしている。

位置決めと仮組みを楽にする工夫を入れる

作る人に優しい設計には、ちょっとした親切が効く。位置決めピンを一本入れておくだけで、現場は部品の位置に迷わない。仮置きできる段差をつけておくだけで、一人でも組み立てられる。こうした「現場が楽になる小さな工夫」は、図面の機能仕様には現れないが、現場の作業時間と品質を確実に左右する。

直す人に優しい設計の具体

設計者が見落としがちなのが「直す人」の存在だ。機械は必ず壊れる。摩耗する。メンテナンスが要る。そのとき、直す人にとって優しいかどうかが、設備の本当の価値を決める。

消耗品は工具なしか最小限の工具で交換できるように

搬送設備でよくあるのが、ベアリングやベルト、シールといった消耗品の交換だ。これらは定期的に必ず交換される。にもかかわらず、交換のために設備の半分を分解しなければならない設計を、私は何度も見てきた。

消耗品は、頻繁に触られる部品だ。だからこそ、最小限の手間でアクセスでき、交換できるように設計すべきだ。私は消耗品の周りには、必ず「人の手と工具が入る道」を確保するようにしている。これは新品で動いている間は誰も気づかない配慮だが、数年後、メンテナンスの現場で必ず効いてくる。

故障時に切り分けやすい構造にする

機械が止まったとき、どこが悪いのかを切り分けやすいかどうかも、直す人への優しさだ。点検口があるか。要所が目視できるか。ユニットごとに分離して交換できるか。

排ガス処理設備の設計に関わったとき、トラブル対応で現場に呼ばれることがあった。そのとき痛感したのは、「分解しないと原因が見えない設計」がいかに現場を苦しめるかだ。ライン停止のコストは、設計者が想像する何倍も大きい。直しやすい設計は、止まっている時間を短くする。それが設備の稼働率という、最も重要な価値に直結する。

重いものを動かす人の身体を想像する

直す人への優しさには、もう一つ大事な視点がある。作業者の身体だ。

搬送設備や製缶物のような大きな構造物では、部品一つが数十キロを超えることも珍しくない。それを人の手で持ち上げ、所定の位置に据える。設計者がCADの画面で部品を動かすのは一瞬だが、現場では生身の人間が腰を痛めながら運ぶのだ。

私は、重い部品には吊り上げ用のアイボルト穴を設ける、分割して運べる構造にする、といった配慮を欠かさないようにしている。クレーンやホイストを掛けられる位置を考えておくだけで、現場の安全と作業効率はまるで違う。机の前では重さを感じない。だからこそ、意識して重量物の取り扱いを想像する必要がある。これは安全設計そのものでもある。

標準部品を使うことも、現場への優しさだ

意外に見落とされがちだが、標準部品を積極的に使うことも、作る人・直す人への優しさだ。

特殊な特注部品ばかりで構成された設備は、一見すると最適設計に見える。だが、その部品が壊れたとき、入手に時間がかかる。納期が読めず、ライン停止が長引く。一方、市販の標準部品で作られた箇所は、近所のホームセンターや商社ですぐに代替品が手に入る。

私は、機能上どうしても必要な箇所以外は、できる限り標準部品を使うようにしている。ベアリング、ボルト、シール、モーター。標準品で済むところを特注にするのは、設計者の自己満足であることが多い。直す人の立場に立てば、いつでも手に入る部品で構成された設備こそ、ありがたいのだ。

優しい設計は、回り回って設計者を守る

ここまで読んで、「現場に優しくするのは大事だが、それは設計者の仕事を増やすのでは」と思うかもしれない。逆だ。優しい設計は、回り回って設計者自身を守る。

作りやすい設計は、現場からの問い合わせを減らす。手直しを減らす。クレームを減らす。直しやすい設計は、トラブル対応で設計者が呼び出される回数を減らす。つまり、現場に優しい設計をしておくことは、未来の自分の時間を守ることなのだ。

私は外部設計者として、複数の現場を渡り歩いてきた。そのたびに、現場の作業者や保全担当者と関係を築いてきた。彼らが「この設計者は現場のことをわかっている」と感じてくれれば、多少のことは融通してくれるし、貴重な現場の知恵も教えてくれる。現場に優しい設計は、信頼という形で必ず返ってくる。

現場を知らない設計者は、強い設計を描けない

結局のところ、現場で強い設計を描くには、現場を知らなければならない。加工現場に足を運び、組み立てを見て、保全の苦労を聞く。机の前だけで強い設計は生まれない。

私が客先常駐という働き方を続けてきた理由の一つは、ここにある。設計のすぐ隣に現場がある環境は、机上の正解と現場の正解のズレを、日々肌で感じさせてくれる。そのズレを埋め続けることが、強い設計者になる唯一の道だと思っている。

現場の声を設計に取り込む仕組みを持つ

ただ現場に足を運ぶだけでは、知恵は蓄積されない。私は現場で聞いた声を、設計に取り込む仕組みを持つようにしている。

具体的には、現場で「この設計はやりにくい」「ここはこうしてくれると助かる」という声を聞いたら、必ずメモに残し、自分の設計チェックリストに反映させる。たとえば「点検口は最低でも手のひら二枚分は確保する」「消耗品の前には必ず作業スペースを取る」といった項目だ。これらはすべて、現場の生の声から生まれた。

設計の教科書には「組み立て性を考慮せよ」「保全性に配慮せよ」と書いてある。だが、それを具体的な寸法や構造に落とし込むには、現場の経験が要る。私のチェックリストは、20年分の現場の声の結晶だ。新しい設計を始めるたびにこれを見返すことで、過去に現場を困らせた失敗を繰り返さずに済む。現場に優しい設計とは、一回の親切ではなく、現場の声を学び続ける習慣から生まれるのだ。

優しさは、過剰設計とは違う

ここで一つ、誤解を解いておきたい。作る人・直す人に優しい設計と、過剰設計は別物だ。

何でもかんでも点検口をつけ、何でもかんでも分解できるようにし、すべての部品を交換しやすくする。それは一見、現場に優しいように見えるが、実際にはコストを膨らませ、構造を複雑にし、かえって設計を弱くする。優しさのつもりが、過剰設計という名の自己満足になっていないか、常に自問する必要がある。

本当に優しい設計とは、「どこに手間がかかるか」を見極めて、そこにだけ配慮を集中させる設計だ。頻繁に交換する消耗品にはアクセスしやすく、ほとんど触らない箇所はシンプルに固める。すべてに均等に配慮するのではなく、メリハリをつける。これは公差の話と同じで、限られたコストを最も効く場所に投資するという、設計の本質に通じる。

現場の声を鵜呑みにしない判断も要る

現場に優しい設計を心がけると言っても、現場の要望をすべて聞き入れればいいわけではない。現場は時に「とにかく分解しやすく」「とにかく余裕を持って」と要望する。その全部に応えれば、設備は大きく重く高価になる。

設計者の仕事は、現場の声を聞いたうえで、機能・コスト・保全性のバランスを取ることだ。現場の要望の背後にある「本当に困っていること」を見抜き、それを最小のコストで解決する。言われたまま作るのは御用聞きであって、設計者ではない。優しさとは、相手の言いなりになることではなく、相手にとって本当に良いものを、責任を持って判断することだ。

まとめ——強さとは、人への優しさだ

現場で強い設計とは、作る人と直す人に優しい設計だ。この言葉の意味を整理する。

第一に、机上の正解と現場の正解は違う。CADの画面には工具も人の手も映らない。映らないものを想像する力が設計者には要る。

第二に、作る人に優しい設計とは、工具が入る空間を確保し、組み立て順序が成立し、現場が楽になる小さな工夫を入れた設計だ。「作れる」と「作りやすい」の差は天と地ほど大きい。

第三に、直す人に優しい設計とは、消耗品が交換しやすく、故障が切り分けやすい設計だ。直しやすさは、設備の稼働率という最も重要な価値に直結する。

そして、優しい設計は回り回って設計者自身を守る。問い合わせ、手直し、トラブル対応を減らし、現場からの信頼を生む。

強さとは、頑丈さや複雑さのことではない。現場の人間への優しさのことだ。作る人と直す人の顔を思い浮かべながら描いた設計こそ、現場で本当に強い。私はそう信じて、今日も図面を描いている。

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現場のすぐ隣で設計するという働き方の中でこそ見えてくる、作る人・直す人の本音がある。その距離感とリアルは、noteマガジン「客先常駐設計者のリアル」で詳しく綴っている。

組み立てやメンテナンスを意識した設計の基礎を学びたい若手には、「機械設計1〜3年目の教科書」がおすすめだ。現場に優しい設計者への第一歩を、ここから踏み出してほしい。

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