3Dプリンタで部品を作ると聞くと、多くの設計者は「今まで機械加工で作っていた図面を、そのまま出力すればいい」と考えがちだ。私自身も最初はそう思っていた。ところが実際に社内に業務用の3Dプリンタ(粉末焼結方式)が導入され、試作部品の出力を任されるようになって、この考えが根本的に間違っていることを思い知らされた。機械加工前提で設計した部品をそのまま積層造形にかけると、サポート材だらけになったり、強度が想定より大幅に落ちたり、造形時間が異常に長くなったりする。
DfAM(Design for Additive Manufacturing、積層造形に適した設計)という考え方に出会ったのは、この失敗を何度か経験した後だった。従来の機械加工前提の設計思想(DfM、Design for Manufacturing)とは発想を大きく切り替える必要があり、最初は戸惑うことも多かった。この記事では、実際に3Dプリンタを使った試作・部品製作の現場で経験した失敗と学びをもとに、DfAMの基本的な考え方と、機械設計者が実務で押さえておくべきポイントを整理していく。
従来設計との発想の違い
機械加工前提の設計では、「削りやすい形状」「型から抜きやすい形状」を意識する。角を落とす、抜き勾配をつける、といった配慮がこれにあたる。一方、積層造形は「材料を一層ずつ積み上げて形を作る」プロセスであるため、意識すべきポイントがまったく異なる。
私が最初に痛感したのは、オーバーハング(張り出し)の扱いだ。機械加工であれば水平方向に張り出した形状も普通に加工できるが、積層造形では、下に支えのない張り出し部分は「サポート材」という仮の支持構造を追加しないと造形できない。サポート材は造形後に除去する必要があり、除去作業に手間がかかるだけでなく、除去した跡が表面に残って仕上げ品質を落とすことがある。
具体的な数値で言うと、私が使っている装置(FDM方式)では、水平面に対して45度を超えるオーバーハングにはサポート材が必要になる。この45度という数字を知らずに、機械加工の感覚で垂直に近い張り出し形状を設計してしまい、サポート材だらけの造形になった経験がある。除去作業に想定の3倍の時間(2時間の予定が6時間)がかかり、納期に響いたことがあった。この失敗以来、設計段階で必ずオーバーハング角度を意識するようにしている。
もう一つ根本的に違うのが、設計変更に対する考え方だ。機械加工では、複雑な形状ほど加工コストが上がるため、できるだけシンプルな形状にまとめようとする力学が働く。ところが積層造形では、形状の複雑さがコストにほとんど影響しない(むしろシンプルな中実形状のほうが材料を使う分コストがかかることすらある)。この特性に気づいてから、私は複数の部品を一体化する設計を積極的に試すようになった。従来は3点の部品をボルトで締結していたブラケットを、積層造形前提で一体形状に再設計したところ、部品点数が減っただけでなく、締結部のガタつきによる不具合もなくなった。組立工数の削減効果も大きく、この一体化設計はDfAMならではの発想だと実感している。
造形方式ごとの特性を理解する
DfAMを実践する上でまず理解すべきなのが、造形方式によって得意な形状・苦手な形状が大きく異なるという点だ。代表的な方式の特性を整理しておく。
| 造形方式 | 特徴 | 設計上の注意点 |
|---|---|---|
| FDM(熱溶解積層) | 樹脂を熱で溶かして積層。安価で扱いやすい | オーバーハング角度に厳しい制約。層間の強度が方向により弱い |
| SLA/DLP(光造形) | 液体樹脂を光で硬化。高精度・滑らかな表面 | サポート跡が残りやすい。中空構造は樹脂の排出穴が必要 |
| SLS(粉末焼結) | 粉末樹脂をレーザーで焼結。サポート材が基本不要 | 粉末除去のための経路確保が必要。複雑形状に強い |
| 金属積層(SLM/DMLS) | 金属粉末をレーザーで焼結 | 熱応力による反りに注意。サポート除去が困難な内部形状は避ける |
私が実務で最も多く使ってきたのはFDMとSLSだが、この二つだけでも設計アプローチはまるで違う。FDMでは前述の通りオーバーハング角度が厳しく制約されるが、SLSは造形中に粉末自体が周囲を支えてくれるため、サポート材がほぼ不要で、複雑な内部形状や中空構造を作りやすい。ただし、SLSは造形後に内部に残った未焼結の粉末を除去する必要があり、閉じた中空構造を作ると粉末が取り出せなくなるという別の問題が出てくる。私が経験した失敗では、複雑な内部流路を持つ部品をSLSで設計した際、粉末の排出経路を考慮せずに完全に閉じた空間を作ってしまい、造形後に部品内部から粉末が出てこなくなったことがある。結局その部品は使い物にならず、排出用の穴を追加した設計に作り直す羽目になった。
材料選定についても触れておきたい。同じFDM方式でも、PLA、ABS、PETG、ナイロンなど材料によって強度・耐熱性・耐薬品性が大きく異なる。私が初めて業務で3Dプリンタを使った際、扱いやすさだけを理由にPLAを選んで機構部品を造形したところ、夏場の車載環境を想定した高温試験で部品が変形してしまったことがある。PLAはガラス転移温度が60度前後と低く、直射日光下の車内のような環境には向いていない。この失敗以降、部品の使用環境(想定温度、屋外か屋内か、荷重の有無)を必ず洗い出してから材料を選定するようにしている。ちなみにこの案件では、最終的にナイロン系材料(耐熱性・靭性に優れる)に変更して問題を解決した。
積層方向(ビルド方向)が強度を左右する
DfAMで最も重要な概念の一つが、積層方向による強度の異方性だ。積層造形で作った部品は、層と層の間の結合力が、材料そのものの強度よりも弱くなる傾向がある。つまり、荷重がかかる方向と積層方向の関係を考えずに造形すると、想定していたよりも大幅に弱い部品ができあがってしまう。
私が経験した具体的な失敗を紹介する。ある治具部品をFDMで造形した際、部品の向きを特に意識せず、造形時間が最短になる向き(部品を寝かせた状態)で出力した。ところがこの部品は使用中に主荷重方向が積層面と平行にかかる設計になっており、実際に使用してみると、想定していた強度の半分程度で層間剥離による破損が発生した。原因を調べると、層間の結合強度は材料そのものの引張強度に対して概ね60〜70%程度しか出ていないことが分かった(使用材料や造形条件によって変動する)。この経験以降、荷重がかかる部品を積層造形で作る際は、必ず主荷重方向と積層方向が平行にならないよう、造形の向きを事前に検討するようにしている。
積層方向を決める際に考慮すべき点をまとめておく。
- 主荷重の方向を洗い出し、積層面と荷重方向が直交(層を貫く方向)になるよう配置する
- 精度が求められる面(嵌合面など)は、積層の階段状の粗さが出にくい向きに配置する
- サポート材が必要な面はできるだけ少なくなる向きを選ぶ
- 造形時間・コストとのバランスを取る(向きによって造形時間が大きく変わる)
これらの条件はしばしばトレードオフの関係になるため、優先順位を明確にした上で向きを決める必要がある。強度優先の部品であれば1を最優先し、外観重視の部品であれば2を優先するといった判断が求められる。
実務では、この積層方向の検討を図面や3Dモデルの段階でチームに共有しておくことも重要だと感じている。私が経験した現場では、設計者が意図した積層方向と、実際に造形オペレーターが装置にセットした向きが食い違い、想定していた強度が出ない部品ができあがってしまったことがあった。原因を調べると、図面には積層方向の指示がどこにも記載されておらず、オペレーターが造形時間の短縮を優先して部品を寝かせた向きで造形していたことが分かった。この一件以降、積層造形前提の図面には「推奨積層方向」を明示する注記を必ず入れるルールにしている。従来の機械加工図面にはなかった情報だが、DfAMを実践する上では欠かせない情報伝達だと考えている。
壁厚と穴形状の設計基準
積層方向とあわせて注意すべきなのが、最小壁厚と穴の設計だ。機械加工であれば1ミリ以下の薄肉形状でも工具さえ入れば加工できるが、積層造形では材料や造形方式ごとに「造形可能な最小壁厚」が決まっている。私が使ってきたFDM装置では、ノズル径0.4ミリに対して壁厚は最低でも0.8ミリ(ノズル径の2倍程度)を確保しないと、造形中に壁が反ったり、そもそも材料が定着しなかったりするトラブルが起きた。
穴形状についても同様の注意が必要だ。水平方向に開けた円形の穴は、積層造形の性質上、真円にならず涙滴型(ティアドロップ型)に近い形状で造形されることがある。これは穴の上部がオーバーハングになり、サポート材なしでは垂れ下がってしまうためだ。私はこの問題を経験してから、精度が必要な穴は積層方向を工夫するか、造形後にドリルやリーマ加工で仕上げる前提で設計するようにしている。設計図面の段階で「この寸法は造形後の後加工で仕上げる」ということを明記しておかないと、現場で認識のズレが生じるので注意が必要だ。
肉抜き・トポロジー最適化との相性
積層造形のもう一つの大きな利点は、複雑な内部構造を機械加工よりも自由に作れることだ。これを活かして、近年はトポロジー最適化ソフトを使い、必要な強度を保ちながら軽量化する設計が広まっている。私も実際にトポロジー最適化ソフトを使って、ブラケット部品の軽量化検討を行ったことがある。
結果として、従来の機械加工設計に比べて重量を35%削減できる形状案が出てきたが、そのまま採用するにはいくつかの壁があった。まず、トポロジー最適化で生成される形状は有機的で複雑な曲面が多く、サポート材の除去が非常に困難な形状になりがちだった。ソフトが出力した最適形状をそのまま造形すると、内部の入り組んだ隙間にサポート材が入り込み、除去がほぼ不可能な部分が出てきてしまう。
この問題を解決するため、最適化結果をそのまま採用するのではなく、サポート材が入り込みそうな箇所だけ手動で形状を修正し、造形性を確保した上で軽量化率を再計算するという手順を踏んだ。最終的な軽量化率は当初の35%から28%まで下がったが、サポート除去可能な現実的な形状に仕上げることができた。トポロジー最適化は強力なツールだが、出力結果をそのまま鵜呑みにせず、造形性を踏まえて設計者が手を入れる工程が必ず必要になる、というのが実務での実感だ。
金属積層造形ならではの注意点
これまで樹脂系の造形方式を中心に述べてきたが、金属積層造形(SLM/DMLS)を扱う機会もあったので、その際に学んだ注意点も共有しておきたい。金属積層造形は、レーザーで金属粉末を局所的に溶融・凝固させるプロセスであるため、樹脂系にはない「熱応力」という問題がつきまとう。
私が経験した案件では、平板に近い薄い部品を金属積層造形で作った際、造形完了後にプレートから部品を取り外したところ、内部応力が解放されて部品が大きく反ってしまったことがあった。原因は、造形中の急激な加熱・冷却の繰り返しによって内部に応力が蓄積していたことだった。対策として、造形後すぐにプレートから取り外さず、応力除去のための熱処理(アニーリング)を行ってから取り外す工程に変更したところ、反りの問題はほぼ解消された。金属積層造形を検討する際は、造形そのものだけでなく、この熱処理工程まで含めた製作フローを最初から織り込んでおく必要がある。
また、金属積層造形は樹脂系に比べてサポート材の除去が格段に難しい。樹脂であればニッパーや手で折り取れるサポート材も、金属では切削工具やワイヤーカットが必要になり、除去作業自体が別工程として大きなコストを占める。私の経験では、内部に複雑な冷却流路を持つ金型部品を金属積層造形で検討した際、サポートが必要な内部形状を極力減らすよう何度も設計を見直し、最終的にサポートなしで自立できる流路形状(自己支持角度を意識した形状)に落ち着かせるまで、3回の設計修正が必要だった。金属積層造形を活かすには、樹脂系以上に「サポートを最初から発生させない設計」を徹底する意識が求められる。
コスト試算で見落としがちなポイント
3Dプリンタでの製作は、機械加工に比べて初期投資(金型費用)が不要なため、少量生産では圧倒的にコストが有利だと思われがちだ。実際、私が試算した限りでは、10個未満の少量製作であれば、機械加工よりも3Dプリンタのほうが総コストは安く済むケースが多かった。
ただし、数量が増えるとこの関係は逆転する。私が扱った部品では、1個あたりの造形コスト(材料費+装置稼働費)が機械加工の1個あたり加工費よりも高く、かつ数量による単価低減効果がほとんどないため、100個を超えるあたりで機械加工のほうが安くなる分岐点が見えてきた。この分岐点は部品形状や材料によって大きく変わるので一概には言えないが、少量試作から量産への移行を検討する際は、必ず数量ごとのコストシミュレーションを行うべきだと感じている。
もう一つ見落としがちなのが、後処理工程のコストだ。積層造形は「出力すれば完成」ではなく、サポート除去、表面仕上げ(研磨・塗装)、場合によっては熱処理(金属積層の場合)といった後工程が必要になる。私が経験した案件では、造形自体の時間は6時間程度だったが、サポート除去と表面仕上げに合わせて4時間かかり、トータルの製作時間としては後処理のほうが工数比率で大きくなることも珍しくなかった。見積もりの際は、造形時間だけでなく後処理工程まで含めたトータルコストで比較する必要がある。
実務でDfAMを取り入れるための進め方
最後に、これから3Dプリンタを本格的に設計に取り入れようとしている設計者に向けて、実務で役立った進め方を紹介したい。
まず、いきなり本番部品でDfAMを実践しようとせず、簡単な治具や検証用モデルで積層方向やオーバーハング角度の感覚を掴むことをお勧めする。私自身、最初の数ヶ月は本番部品ではなく、社内で使う簡易治具や検査冶具を意図的にたくさん3Dプリンタで作り、失敗を重ねながら勘所を掴んでいった。この期間の失敗コストは低く抑えられるし、失敗から学べることは非常に多い。
次に、使用する装置・材料ごとの設計ガイドラインを自分なりにまとめておくこと。メーカーが提供する公式のデザインガイドもあるが、実際に自社の装置・環境で試すと、公式ガイドの数値通りにはいかないことも多い。私の現場では、オーバーハング角度、最小肉厚、穴の最小径といった項目について、実際に試験片を造形して自社基準の数値表を作成した。この数値表があるおかげで、新しい部品を設計するたびに毎回試行錯誤する必要がなくなり、設計効率が大きく向上した。
最後に、機械加工と積層造形のどちらが適しているかを判断する目を養うことも重要だ。すべてを3Dプリンタに置き換えるのではなく、複雑な内部形状や少量多品種の部品には積層造形、シンプルな形状で数量がまとまる部品には機械加工、というように適材適所で使い分ける判断力が、DfAMを実務で活かす上での最終的な到達点だと感じている。積層造形は万能の解決策ではなく、あくまで設計者が持つ選択肢の一つとして、正しく特性を理解した上で使いこなすことが求められている。
社内にDfAMの知見を根付かせる工夫
個人が試行錯誤で身につけたDfAMの勘所は、放っておくとその人の頭の中だけに留まり、チーム全体の資産にならない。私の現場では、失敗事例と成功事例をまとめた社内ドキュメントを作成し、新しく3Dプリンタを扱うことになった設計者に必ず目を通してもらう運用にしている。特に効果的だったのは、失敗した部品の実物写真とともに「なぜ失敗したか」「どう直したか」を記録したことだ。図面や数値だけの説明よりも、実際に反ってしまった部品やサポート跡が汚く残った部品の写真を見せたほうが、若手設計者への説得力が段違いに高い。
また、装置の稼働ログと造形結果を紐づけて記録することも習慣化した。同じ材料・同じ形状でも、装置の温度設定や造形速度の違いで結果が変わることがあるため、条件と結果のペアをデータとして蓄積しておくと、次に似たような形状を造形する際の判断材料になる。3Dプリンタは導入したその日から使いこなせるものではなく、装置ごと・材料ごとの癖を理解しながら、社内にノウハウを蓄積していくプロセスそのものが、DfAMを実務レベルで機能させるために欠かせない工程だと感じている。



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