半導体や医薬品、食品関連の設備設計に関わったことがある人なら、一度は「この図面、クリーンルーム対応にしてください」という一言に頭を抱えた経験があるはずだ。通常の産業機械設計とクリーンルーム対応設計は、似ているようでいて発想の起点がまったく違う。通常設計が「壊れないこと」「動くこと」を軸に組み立てられるのに対し、クリーンルーム対応設計は「塵を出さないこと」が最優先事項になる。強度計算をクリアしていても、摺動部からわずかでも発塵する構造であれば、その設計は現場では不合格になる。
私は客先常駐で半導体製造装置メーカーの設計チームに入っていた時期があり、そこで最初に叩き込まれたのが「クリーンルームでは常識が通用しない」という感覚だった。普段何気なく使っているベアリングの潤滑グリス、ねじの締結、樹脂部品の摩耗——そのすべてが発塵源になり得る。この記事では、実務で得た知見をもとに、クリーンルーム対応設計の基礎となる考え方と、具体的な設計上の判断基準を整理していく。
クリーンルームのクラスを理解しないと設計は始まらない
クリーンルーム対応設計の第一歩は、対象となるクリーンルームのクラスを正確に把握することだ。ISO14644-1に基づくクラス分類(ISOクラス1〜9)や、旧来のFed.Std.209E(クラス1〜100000)のどちらの基準で語られているかを確認しないと、要求される発塵管理レベルがまったく見えてこない。
現場で私が経験した案件では、半導体前工程のリソグラフィ工程に近いエリアでISOクラス3(0.1μm粒子で1立方メートルあたり1000個以下)という非常に厳しい要求があった一方、同じ工場内でも搬送エリアはISOクラス7程度で運用されているケースもあった。同じ「クリーンルーム対応」という言葉でも、要求される発塵抑制のレベルは装置の設置場所によって10倍以上変わることがある。
設計者が最初にやるべきことは、装置の設置エリアのクラスと、装置自体に許容される発塵量(パーティクルカウント基準)を客先の仕様書で確認し、それを社内の設計標準に落とし込むことだ。私の経験では、この確認を怠って「とりあえず一般的なクリーン対応部品を使えばいい」という感覚で進めた案件があり、後工程の評価試験でパーティクル数が基準の3倍出て、摺動部の再設計にまるまる2週間を要したことがある。最初の要求確認がその後の手戻りを大きく左右する。
| 分類基準 | 目安のクラス | 代表的な用途 |
|---|---|---|
| ISOクラス1〜3 | 極めて厳しい | 先端半導体の露光・成膜工程 |
| ISOクラス4〜5 | 厳しい | 半導体一般工程、精密光学部品 |
| ISOクラス6〜7 | 中程度 | 液晶・有機EL製造、医薬品充填 |
| ISOクラス8〜9 | 比較的緩い | 搬送エリア、包装工程 |
発塵源を洗い出す——摺動・摩耗・締結の3視点
設計段階で発塵源になり得る箇所は、大きく分けて「摺動部」「摩耗部」「締結部」の3つに整理できる。私はレビュー時、図面を見ながらこの3つの視点で必ずチェックリストを回すようにしている。
摺動部の代表例はリニアガイド、ボールねじ、シリンダのロッドシール部だ。通常のグリス潤滑では油煙やオイルミストが発生し、これがクリーンルームでは致命的な汚染源になる。対策としては、フッ素系のクリーングリスを使う、あるいはグリスレスのドライベアリング(セラミックボールやDLCコーティングを施したもの)を採用する、といった選択肢がある。私が担当した搬送ロボットの設計では、当初通常グリスのリニアガイドで試作したが、パーティクル評価で不合格となり、フッ素グリス品に変更した経緯がある。コストは通常品比で1.5倍ほど上がったが、これは要求クラスを満たすための必須コストとして客先にも説明し、了承を得た。
摩耗部は樹脂ローラー、ベルト、ブラシ状のシール材などが該当する。摩耗によって微粉が発生するため、摩耗量が少ない材質(POM、PEEKなど)を選定し、可能な限り摺動距離や接触面積を減らす設計にする。ベルト駆動が避けられない場合は、ベルトの材質選定だけでなく、テンション管理やベルトカバーによる飛散防止も設計要素に入れる必要がある。私が担当した搬送コンベアの案件では、標準品のゴムベルトを使ったところ、稼働開始から1か月ほどでベルト端面の摩耗粉が周囲に散乱し、パーティクルカウンタで異常値を記録した。ウレタン系の低発塵ベルトへの変更と、ベルト両端にエッジガードを追加することで、発塵量を測定値ベースで約7割減らすことができた。
締結部は見落とされがちだが、実は重要な発塵源だ。ねじの緩み止め剤や、めっき部品のかじり、座金の摩耗粉などが該当する。私は現場で、装置稼働後半年でパーティクルが増加するというクレームを受けたことがあり、原因を追跡したところ、振動でわずかに緩んだボルトの座面から微粉が発生していたことが判明した。以降、クリーンルーム対応の設計では、緩み止めにねじロック剤ではなく機械的なロック機構(歯付き座金や割りピンなど発塵しにくい方式)を優先するようにしている。
さらに見落とされやすいのが、可動部と固定部の隙間から発生する「かじり粉」だ。位置決めピンやスライド機構で金属同士が直接接触する設計にすると、微視的なレベルでの擦れが発生し、これが継続的な発塵源になる。私が経験した案件では、位置決めピンの嵌合公差をわずかに詰めすぎたことで、繰り返し着脱するうちにピン表面にかじりが生じ、金属粉が発生していたことがあった。対策として、ピンの表面にDLCコーティングを施し、嵌合公差にも適切なクリアランスを持たせることで解消した。設計段階での公差設定は、機能面だけでなく発塵の観点からも見直す価値がある。
材料選定の勘所——樹脂・金属・潤滑剤の三択
クリーンルーム対応設計では、材料選定が設計品質の8割を決めると言ってもいい。金属部品はステンレス(SUS304、SUS316)を基本とし、めっき処理は極力避ける。無電解ニッケルめっきは硬度が高く摩耗に強いが、経年でめっき層が剥離するリスクがあるため、長期稼働する装置には向かない場合がある。
樹脂部品はPEEK、POM、PTFEが定番だが、それぞれ発塵特性が異なる。PEEKは耐摩耗性・耐薬品性に優れコストは高いが、摺動部品には最適だ。POMは加工性がよくコストも抑えられるが、摩耗粉が出やすいため摺動頻度が高い箇所には向かない。PTFEは低摩擦だが柔らかく、荷重がかかる箇所では変形・摩耗が進みやすい。
潤滑剤については、フッ素系グリス(クライトックス系など)が業界標準になっている。ただし高粘度のフッ素グリスは低温始動時のトルクが増大するため、装置の使用環境温度も含めて選定する必要がある。私が担当した装置では、冬季の工場立ち上げ時にトルク不足でモータがアラームを出すトラブルがあり、低温対応グリスへの変更で解決した。材料選定は単に発塵特性だけでなく、機械としての性能要求とのバランスを取ることが実務では不可欠だ。
材料選定でもう一つ見落とされがちなのが、ガス放出(アウトガス)の問題だ。半導体前工程のように微量のガス成分すら嫌う環境では、樹脂材料そのものから揮発する有機成分が製品に悪影響を与えることがある。私が経験した案件では、通常のゴム系Oリングを使用したところ、装置稼働後にウェハ表面へのわずかな有機汚染が検出され、原因を追跡した結果、Oリングからのアウトガスが疑われた。フッ素ゴム(FKM)やパーフロロエラストマー(FFKM)といった低アウトガス材への変更で解決したが、これらは通常のニトリルゴムに比べて数倍のコストがかかるため、要求される清浄度と予算のバランスを見ながら選定する必要がある。
静電気対策も発塵抑制の一部と考える
クリーンルーム対応設計を語るとき、発塵と並んで欠かせないのが静電気対策だ。帯電した部品はパーティクルを引き寄せる性質があり、いくら発塵を抑えた設計にしても、表面が帯電していれば周囲の微粒子を吸着し、結果的に汚染源になってしまう。
樹脂部品は特に帯電しやすく、通常のPOMやアクリルをそのまま使うと、摺動や搬送の際の摩擦で容易に帯電する。私が担当した搬送治具の設計では、通常樹脂で作った治具にワークを乗せる工程で、ワーク表面にパーティクルが異常に付着するという不具合が発生した。原因は治具自体の帯電で、導電性を持たせたPOM(カーボン練り込み品)への材質変更とアース経路の確保によって解消した。
金属部品についても、絶縁体を介して浮いた状態になっていると帯電が蓄積することがある。私はクリーンルーム対応の装置では、金属フレームやカバー類のアース接続を必ず図面上で明記し、接地抵抗の目安値(現場では10の6乗Ω以下を基準にすることが多い)を仕様として残すようにしている。静電気対策は電気設計の領域と思われがちだが、部品の材質選定やアース経路の確保は機械設計者の仕事であり、発塵対策と一体で考えるべき項目だ。
排気・気流設計との整合を取る
クリーンルーム対応設計は装置単体の発塵抑制だけでは完結しない。装置内部で発生した微量の塵をどう排気し、クリーンルームの気流(ダウンフロー)を乱さないかという視点が同じくらい重要だ。
装置設計の段階で、発塵が予想される箇所(摺動部やモータ周辺)には局所排気のダクトを設け、装置内を負圧に保つ設計が定石になる。私が経験した案件では、装置筐体のパネル隙間から内部の気流が漏れ出し、クリーンルームのダウンフローと干渉してパーティクルカウンタの数値が跳ね上がるという不具合があった。原因はパネルの合わせ部のシール性が不十分だったことで、ガスケットの追加とパネル締結ピッチの見直しで対応した。
排気設計は空調・環境部門との連携が必須になる領域だ。設計者だけで完結させようとすると、装置単体では問題なくても、クリーンルーム全体の気流バランスを崩してしまうことがある。私の経験では、装置の排気風量を仕様書の数値通りに設計したつもりが、実際の現場では複数台の装置が並んで稼働することで排気能力の帯域が競合し、想定より排気効率が落ちるという事象があった。これは装置単体の図面だけを見ていては気づけない問題で、レイアウト全体を俯瞰する視点が必要になる。
排気ダクトの取り回しそのものも設計上の悩みどころだ。ダクト径を絞りすぎると排気抵抗が増えて必要な風量が確保できず、逆に太くしすぎると装置内のスペースを圧迫し、他の機構と干渉するリスクが出てくる。私が担当した装置では、当初の排気ダクト径では風量不足でパーティクルカウンタの数値が安定しなかったため、ダクト径を1サイズ上げるとともに、ダクトの取り回し経路を見直して曲げ回数を減らすことで抵抗を下げ、規定風量を確保できるようになった。排気設計は電気配線や配管と場所の取り合いが発生しやすいため、機構設計の初期段階からダクトスペースを確保しておくことが後工程の手戻りを防ぐコツだと感じている。
表面処理と洗浄性——「拭ける設計」にする
クリーンルームでは定期的な清掃・洗浄が行われる。IPA(イソプロピルアルコール)やDIW(純水)による拭き取りに耐える表面処理を選ぶことも、設計者の重要な仕事だ。
塗装仕上げは避け、可能な限り無塗装のステンレスやアルマイト処理したアルミを使う。塗装は経年で剥離するリスクがあり、剥離片そのものが発塵源になる。どうしても塗装が必要な場合は、耐薬品性の高いフッ素樹脂系の塗装を選び、密着性試験(碁盤目試験など)をクリアした仕様を指定する。
また、清掃のしやすさも設計段階で織り込む必要がある。奥まった箇所や配線の入り組んだ箇所は拭き取りができず、塵が溜まる温床になる。私が新人設計者だった頃、ケーブルダクトの配線を美観優先で密に詰め込んだ設計をしたところ、現場のクリーンルーム担当者から「これじゃ拭けない、やり直し」と厳しく指摘されたことがある。以来、配線経路は清掃工具が入る隙間を必ず確保するようにしている。具体的には、拭き取り用のクロスやワイパーが入る最低30mm程度の隙間を各部に確保することを社内標準にしているチームもある。
部品調達と受入検査での落とし穴
クリーンルーム対応の部品は、通常品と型番が似ていても中身(グリスの種類や表面処理)が異なることが多い。調達段階での型番間違いは、後工程で発覚すると装置の分解・再組立という大きな手戻りにつながる。
私が経験した失敗では、ベアリングメーカーのカタログでクリーン対応品と通常品の型番末尾のアルファベット一文字だけが異なっており、発注担当者がそれを見落として通常品を発注してしまったことがあった。組立後のパーティクル評価で異常値が出て初めて気づき、全数ばらして交換する羽目になった。この経験から、クリーンルーム対応部品はBOM上で型番だけでなく「クリーン対応品であること」を明記する備考欄を必須にするというルールを設けた。
受入検査の段階でも、クリーン対応品は通常の梱包とは異なる二重梱包・クリーンルーム内での開梱手順が必要になることが多い。設計者が調達仕様書にこの点を明記しておかないと、現場での開梱作業自体がコンタミネーション源になってしまう。設計は図面を描いて終わりではなく、部品がクリーンルームに搬入されるところまで見据えて仕様化する必要がある。
受入検査そのものも通常品とは異なる観点が必要になる。一般的な寸法・外観検査に加え、クリーン対応品では表面の異物付着有無をルーペやパーティクルカウンタで確認する工程を追加することが望ましい。私が担当した案件では、部品メーカー側の梱包工程で使用していた緩衝材の繊維くずが部品表面に付着したまま納品され、それに気づかず組み込んでしまい、後工程の評価で発塵源として検出されたことがあった。以降、クリーン対応部品の受入時には、開梱直後にエアブローと目視確認を行う工程を標準化し、同様のトラブルを防いでいる。
評価試験とパーティクルカウント測定の実務
設計が終わった後の評価段階も、クリーンルーム対応設計の重要な一部だ。パーティクルカウンタを用いた発塵量測定は、装置を静止状態と稼働状態の両方で行うのが一般的で、稼働時の発塵量が仕様値を超えないかを確認する。
私が担当した案件では、静止時は問題なくても、装置を稼働させた瞬間にパーティクル数が跳ね上がるという現象が頻発した。原因の多くは可動部の摺動摩擦によるものだが、中には配線ケーブルの被覆材が擦れて発塵しているケースや、冷却ファンの羽根が経年劣化した樹脂粉を巻き上げているケースもあった。評価試験は一度で終わらせず、設計変更のたびに再測定を行うサイクルを回すことが品質を担保する上で欠かせない。
また、評価試験の結果は設計標準にフィードバックすることが望ましい。私のチームでは、発塵トラブルが発生した箇所とその対策を「発塵対策事例集」として社内共有し、次の設計案件で同じ問題を繰り返さないようにしている。個々の設計者の経験に頼るのではなく、組織としてノウハウを蓄積する仕組みを持つことが、クリーンルーム対応設計の品質を安定させる鍵になる。
まとめ——発塵ゼロは目指さず、管理可能な発塵を設計する
クリーンルーム対応設計というと「発塵をゼロにする」というイメージを持たれがちだが、実務ではそれは現実的ではない。どんな機械も動けば必ず微量の摩耗や摩擦が発生する。重要なのは、発塵を完全にゼロにすることではなく、要求されるクラスの範囲内に発塵量を管理し、かつその管理状態を長期間維持できる設計にすることだ。
材料選定、摺動部の構造、排気設計、表面処理、調達管理、評価試験——これらすべてが連動して初めてクリーンルーム対応設計は成立する。私自身、最初はグリスや材質の知識だけでなんとかなると思っていたが、実際には排気設計や調達管理まで含めたトータルの視点が必要だと痛感させられた案件が何度もあった。設計者一人の知識だけでなく、空調・調達・現場清掃担当者との連携があって初めて、要求されるクリーン度を満たす装置ができあがる。次にクリーンルーム対応の依頼を受けたときは、まず要求クラスを正確に確認し、発塵源を3視点で洗い出すところから着手してほしい。



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