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衝撃試験の基礎——シャルピー・アイゾット・吸収エネルギー

実務ノウハウ

はじめに

機械設計者として20年、外部設計事務所の社員という立場で大手メーカーに常駐してきた。

設計のメインは産業機械の構造物・架台・搬送装置だが、材料試験のデータを読む機会は想像以上に多い。

特に「衝撃試験」は、引張試験ほど日常的に出てくる数値ではないものの、寒冷地仕様の架台プレス機の打撃を受ける部位を設計するときには避けて通れない。

若手の頃、北海道の工場向け搬送装置でSS400をそのまま使い、低温脆性で割れた経験がある。あのときは正直、衝撃試験の意味を本当の意味で理解していなかった。

この記事では、シャルピー・アイゾット・吸収エネルギーの3つを軸に、衝撃試験の基礎と、現場で材料を選ぶときの判断軸を整理する。

衝撃試験とは何を測っているのか

引張試験(JIS Z 2241)で得られる引張強さや伸びは、ゆっくり荷重をかけたときの指標だ。

しかし機械は、プレス機の打撃、落下、衝突など、瞬間的に大きな荷重を受けることがある。

このとき同じ鋼でも、ゆっくり引っ張れば伸びる材料が、衝撃を加えるとパキッと割れることがある。

これが「脆性破壊」で、衝撃試験はこの靭性(じんせい:粘り強さ)を評価する試験だ。

試験の規格はJIS Z 2242(金属材料のシャルピー衝撃試験方法)が基本。

試験片に切欠き(ノッチ)を入れ、振り子式のハンマーで叩き割り、ハンマーが失ったエネルギー=試験片が吸収したエネルギー(J)を測る。

吸収エネルギーが大きいほど靭性が高い、つまり粘り強い材料ということになる。

私が現場で痛い目を見た例

外部設計者として常駐していた重機メーカーで、北海道向けのコンベヤ架台を設計した時のこと。

鋼材は標準のSS400、板厚9mm。コストも納期も問題なし、強度計算も余裕。

ところが冬場、現地で組み立てた架台のブラケット部から、衝撃を受けた瞬間にガラスのように割れたという報告が入った。

調べると、外気温-25℃でSS400の靭性が著しく低下する「低温脆性遷移」の典型だった。

JIS規格上、SS400には衝撃試験値の規定がない。これを当たり前として設計に入れていなかった私のミスだ。

以降、寒冷地仕様はSM490YBやSN490Bなど、シャルピー吸収エネルギーの規定がある鋼材に切り替えるようになった。

シャルピー試験の構造とノッチ形状

シャルピー試験では、幅10mm×厚さ10mm×長さ55mmの試験片の中央にノッチを入れ、両端を支える「支持両端梁式」でハンマーが背面から打撃する。

ノッチには種類がある。

  • **Uノッチ**:半径1mm、深さ5mm。比較的緩やかな切欠き。
  • **Vノッチ**:角度45°、半径0.25mm、深さ2mm。応力集中が大きい。

現在の主流はVノッチ(JIS Z 2242の標準)。応力集中が大きい分、靭性の違いがシビアに出る。

試験片 ノッチ形状 主な規格 用途
シャルピーVノッチ V字 半径0.25mm JIS Z 2242, ASTM E23 構造用鋼の標準評価
シャルピーUノッチ U字 半径1mm 旧JIS(参考) 古い図面・参考値
アイゾットVノッチ V字 半径0.25mm ASTM D256(樹脂) 樹脂材の片持ち梁式

ノッチ形状が違えば吸収エネルギー値も変わるので、図面や材料証明書で「Vノッチ」かどうかは必ず確認する

試験の手順

1. 試験片を-40℃〜常温の所定温度で温度安定させる

2. 支持台にセットし、振り子ハンマー(容量300J程度)を所定高さから振り下ろす

3. ハンマーが試験片を破壊した後、振り上がる高さからエネルギー差分を読む

4. 吸収エネルギー(J)を記録、試験温度・破面様相(延性/脆性比率)も記録

試験機は島津製作所、東京試験機、東京衡機などが定番。社内に持っているメーカーは少なく、外部試験所(コベルコ科研、住友金属テクノロジー、神鋼テクノなど)に出すケースが多い。

アイゾット試験との違い

シャルピーが「両端支持梁+背面打撃」なのに対し、アイゾット試験は片持ち梁式

試験片の下半分を万力で固定し、上端をハンマーで叩く。

金属では現在ほとんどシャルピーに統一されているが、樹脂材料の世界ではアイゾットが今も主流だ。

ASTM D256(樹脂のアイゾット衝撃試験)で規定され、樹脂メーカーのカタログ値はほぼアイゾット値で書かれている。

例えば三菱エンジニアリングプラスチックスのユーピロン(PC)のカタログ値は「ノッチ付きアイゾット衝撃強さ 75 kJ/m²」のように表記されている。

樹脂部品設計時の注意

樹脂部品(カバー、シュート、ホッパーなど)を設計するとき、金属の感覚で「強そうだから大丈夫」と判断すると失敗する。

特に冬場の屋外設置や、振動・衝撃が加わる部位では、アイゾット値を見て選定する。

私が手痛い思いをしたのは、屋外シュートにABS(ノッチ付きアイゾット約20kJ/m²)を選んだケース。

夏は問題なかったが、冬に作業員が点検中に蹴飛ばしてヒビが入った。低温靭性に弱いABSではなく、変性PPE(ザイロン)やPC/ABSアロイにすれば防げたミスだった。

吸収エネルギーと延性脆性遷移温度

衝撃試験で得られる吸収エネルギーは、温度によって大きく変わる

これが「延性脆性遷移」と呼ばれる現象だ。

横軸に試験温度、縦軸に吸収エネルギーをプロットすると、S字カーブが描ける。

  • 高温側:吸収エネルギー大(延性破壊、破面はキラキラした光沢のない繊維状)
  • 低温側:吸収エネルギー小(脆性破壊、破面はキラキラした結晶状)

カーブが急変する温度を延性脆性遷移温度(DBTT: Ductile-Brittle Transition Temperature)と呼ぶ。

実用上のしきい値

構造用鋼の世界では「使用環境温度において、シャルピー吸収エネルギー27J以上」が一つの目安。

これは古くから橋梁やプラント設計で使われている経験則で、SN490B(建築構造用圧延鋼材)も0℃で27J以上を保証している。

鋼種 規格 試験温度 シャルピー保証値
SS400 JIS G 3101 規定なし
SM490A JIS G 3106 規定なし
SM490B JIS G 3106 0℃ 27J以上
SM490YB JIS G 3106 0℃ 27J以上
SN490B JIS G 3136 0℃ 27J以上
SM490C JIS G 3106 0℃ 47J以上

寒冷地や重要部材ではSM490Cクラスを選ぶ。

私の現場では、北海道向け装置はSM490YB以上を標準化している。

鋼材以外の衝撃試験——鋳鉄・アルミ・樹脂

衝撃試験は鋼だけのものではない。

鋳鉄

ねずみ鋳鉄(FC200, FC300)はそもそも靭性が低く、衝撃用途には不適

衝撃を受ける部位(ハンマー、シャベル、フォーク類)には球状黒鉛鋳鉄(FCD400, FCD450)を選ぶ。

FCD400の吸収エネルギーは常温で15J程度、FC250はほぼ0J(脆性破壊)と大きな差がある。

鋳物だから安いと安易にFC選定すると、衝撃で割れる事故になる。

アルミ合金

A5052, A6061は良好な靭性を持つが、A7075(超々ジュラルミン)は高強度の反面、靭性が低い。

航空機構造でA7075が使われるのは、軽量化と引き換えに疲労や衝撃を別途設計で吸収している前提だ。

産業機械では「強そうだから」とA7075を選ぶより、A6061-T6で必要強度を確保する方が安全。

樹脂

樹脂の衝撃強さは、温度・吸湿・加工方法で大きく変わる。

カタログ値はあくまで標準条件、実環境での評価が必要。

特に屋外品はUV劣化で靭性がさらに低下するので、安全側で1.5〜2倍のマージンを取る。

衝撃試験を現場で活かす設計判断軸

材料試験データを「ただ見る」のと「設計判断に使う」のは別物だ。

20年現場にいて、私が後輩に教えている判断軸を整理しておく。

① 使用環境温度を必ず確認する

「設置場所はどこか」「最低気温は何度か」を必ず仕様書で押さえる。

屋外、寒冷地、冷凍倉庫、低温プロセス装置は要注意。

SS400やSM400Aは衝撃保証がないので、最低気温が0℃を切る環境ではSM490Bクラス以上を推奨する。

② 衝撃荷重を受ける部位は強度計算とは別軸で評価する

引張強さ400MPaで余裕がある計算でも、衝撃で割れることがある。

プレス機ベース、打撃を受けるブラケット、落下衝撃を受けるホッパー入口は、衝撃エネルギー吸収量で評価する。

③ 溶接部はさらに厳しく見る

溶接熱影響部(HAZ)は組織が変化し、母材より靭性が低下することがある。

重要溶接部は、HAZの衝撃試験データを材料メーカーに確認する。

JIS Z 3110(鋼溶接部の衝撃試験方法)が参考になる。

④ 樹脂は「カタログ値の半分」で見る

樹脂の衝撃値は、成形条件・温度・湿度で大幅に変わる。

重要部位は実機評価か、安全側でカタログ値の50%程度で設計する。

おわりに

衝撃試験は引張試験ほど派手なデータではないが、「割れない設計」を支える縁の下のデータだ。

私自身、北海道での失敗以降、寒冷地案件では必ずシャルピー値を確認するようになった。

材料証明書(ミルシート)に「シャルピー吸収エネルギー 0℃ 35J」と書いてあるかどうか、たった一行の有無で設計の安全率が変わる。

これが分かるようになったのは、本を読んでではなく、現場で「割れた現物」を見せられてからだった。

教科書には「靭性が大事」と書いてあるが、それを腹落ちさせるのは結局現場の経験だ。

若い設計者には、ぜひ機会があれば実際に破断した試験片の破面を見てほしい

延性破面と脆性破面の違いが分かると、衝撃試験のデータが一気にリアルになる。

設計×現場ラボ|sekkei-tech.com

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