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トポロジー最適化入門——AIが設計する時代の設計者の役割

実務ノウハウ

「AIが設計をしてくれる時代が来たら、設計者は不要になるのではないか」。この手の話を初めて聞いたのは、あるトポロジー最適化ソフトのデモンストレーションを見学したときだった。荷重条件と拘束条件を入力するだけで、コンピュータが自動的に無駄な材料を削ぎ落とし、有機的で複雑な形状の構造物を生成していく様子を見て、正直なところ強い危機感を覚えた。

だがそれから数年、実際にトポロジー最適化を業務で使う機会を得て、その道具としての本質を理解するにつれて、「AIが設計者の仕事を奪う」という単純な話ではないと分かってきた。むしろ、トポロジー最適化を使いこなせるかどうかが、これからの設計者の付加価値を大きく左右すると考えるようになった。この記事では、トポロジー最適化とは何か、実際の業務でどう使えるか、そしてこの技術が普及する時代に設計者に求められる役割がどう変わるかを、実体験を交えて書いていく。


トポロジー最適化とは何をする技術か

トポロジー最適化は、指定された設計空間(材料を配置してよい領域)、荷重条件、拘束条件、そして最適化したい目的(重量最小化、剛性最大化など)を与えると、コンピュータがその条件を満たす最適な材料の配置を自動的に導き出す技術だ。従来のCAEが「決められた形状の応力や変形を評価する」ものだったのに対し、トポロジー最適化は「形状そのものを生成する」という点で根本的に異なる。

出力される形状は、従来の機械加工では作れないような有機的で複雑な形になることが多い。骨のような、あるいは木の枝分かれのような形状が生成されるのは、それが力の伝達経路として最も効率的な形だからだ。近年3Dプリンター(積層造形)の実用化が進んだことで、こうした複雑形状を実際に製造できるようになり、トポロジー最適化の実用性が一気に高まった。

トポロジー最適化と混同されやすい技術に、格子構造(ラティス構造)最適化がある。トポロジー最適化が「材料を配置すべき場所」を決める技術であるのに対し、ラティス構造最適化は既に決まった外形の中を、強度を保ちながら内部だけを格子状の骨組みに置き換えて軽量化する技術だ。両者は似て非なるものだが、ソフトによっては両方の機能を併せ持つものもあり、私も最初はこの違いを理解しないままソフトを触っていて、意図しない結果に戸惑ったことがある。外形自体を変えてよいのか、外形は固定して内部だけを最適化したいのかを、最適化を始める前に明確にしておく必要がある。

私が最初にこの技術に触れたのは、ある搬送設備メーカーで軽量化が求められたブラケット部品の設計だった。従来の設計手法では板厚を薄くする、リブを追加するといった経験則に基づく試行錯誤を繰り返していたが、トポロジー最適化ソフトに荷重条件を入力したところ、人間の発想では思いつかないような肉抜き形状が数分で出力された。従来設計に対して重量を32%削減しながら、剛性は同等以上を確保できるという結果に、率直に驚いた記憶がある。

この最初の成功体験で気をつけなければならないのが、削減できた重量比率だけに目を奪われないことだ。32%という数字は魅力的だが、実際には形状が複雑になったことで検査工数が増え、量産初期には検査治具の追加製作も必要になった。トポロジー最適化がもたらすのは重量という一つの指標の最適化であり、それ以外のコストや工数への影響は別途評価しなければならないという、当たり前だが見落としがちな教訓を、この最初の案件で学んだ。

トポロジー最適化を使う上での3つの前提条件

実際に使ってみて分かったのは、トポロジー最適化は「魔法の道具」ではなく、正しく使うためにはいくつかの前提知識が必要だということだ。

1つ目は、荷重条件と拘束条件の設定精度が結果を大きく左右するという点だ。これはFEM解析全般に共通する話だが、トポロジー最適化ではこの影響がさらに顕著になる。想定する荷重条件が実機と乖離していると、「その条件下では最適だが実際には使えない」形状が生成されてしまう。私が経験した失敗では、単一方向の静荷重のみを条件として入力したところ、その方向には非常に強いが、想定していなかった横方向の力に対して極端に弱い形状が生成されたことがあった。実機では組立時や輸送時に横方向の力がかかることを見落としていたため、後から複数の荷重ケースを追加して再計算する手戻りが発生した。

2つ目は、製造方法の制約を最適化の条件に組み込む必要があるという点だ。トポロジー最適化ソフトは、何も制約を与えなければ機械加工では絶対に作れないアンダーカット形状や中空構造を平気で提案してくる。3Dプリンターで製造する前提であればそれでよいが、既存の鋳造や機械加工で製造する場合は、抜き勾配や最小肉厚といった製造制約を最適化の条件として事前に組み込んでおく必要がある。この設定を怠ると、理論上は最適でも実際には作れない形状が出力され、結局は人力での形状修正に時間を取られることになる。

3つ目は、出力された形状をそのまま図面化できないという点だ。トポロジー最適化の出力は、あくまで「材料をどこに配置すべきか」という参考形状であり、そのままでは製造図面にならない。滑らかな曲面への整形、公差の設定、組立性の考慮など、実際の図面に落とし込むには設計者の手による再構築(リデザイン)が必須になる。この工程を軽視すると、せっかくの最適化結果が絵に描いた餅で終わってしまう。

この3つの前提条件に加えて、私が実務で痛感しているのが「解析条件そのものの妥当性を疑う目」を持ち続けることの重要性だ。トポロジー最適化は、入力した条件に対しては数学的に忠実に最適解を返してくる。つまり、条件設定が間違っていても、ソフトは何の疑いもなく「その間違った条件のもとでの最適解」を出力してしまう。FEM解析であれば結果の桁がおかしければ違和感に気づきやすいが、トポロジー最適化の場合は出力される形状自体が独特で複雑なため、条件設定のミスに気づきにくいという厄介な性質がある。私は最適化を実行する前に、必ず簡易的な手計算やFEM解析で大まかな荷重の妥当性を検証してから最適化にかけるようにしている。

実務での活用フロー——最適化からリデザインまで

私が実務で確立してきたトポロジー最適化の活用フローを紹介する。まず設計空間を定義する段階では、他の部品との干渉禁止領域(必ず材料を残せない範囲)と、材料配置が許される最大範囲を明確にする。次に荷重条件の洗い出しでは、静荷重だけでなく、輸送時・組立時・メンテナンス時などあらゆる使用シーンでの荷重ケースを想定して複数条件を設定する。ここを丁寧にやるかどうかで最終的な形状の実用性が大きく変わる。

最適化計算を実行した後は、出力形状をそのまま使うのではなく、製造方法に応じたリデザインを行う。私が携わった案件では、機械加工での製造を前提としていたため、最適化で得られた有機的な形状を、直線や単純な曲面の組み合わせに置き換える作業を行った。この際、応力集中箇所(最適化形状のくびれ部分など)にはフィレット処理を追加し、加工性を確保しながらも構造的な効率をできるだけ維持することを意識した。

以下は、私が実際にリデザインの際に確認している観点を整理したものだ。

確認項目 具体的な確認内容
加工性 工具が届く形状か、5軸加工が必要か3軸で足りるか
応力集中 最適化形状のくびれ・角部にフィレットを追加できているか
組立性 他部品との干渉、ボルト締結スペースが確保されているか
検査性 品質検査(寸法測定)が可能な形状になっているか
コスト リデザイン後も軽量化のメリットが加工コスト増を上回るか

最後のコスト項目は特に重要だ。トポロジー最適化で軽量化に成功しても、複雑形状ゆえに加工コストが跳ね上がり、トータルでは従来設計よりも高くつくケースは珍しくない。ある案件では、重量を25%削減できる最適化形状が得られたものの、5軸加工機での複雑加工が必要になり、加工費が従来の2.3倍に増加したため、結局はより単純化した中間的な形状で妥協することになった。軽量化という技術的な成果と、製造コストという経済的な制約のバランスを取ることも、設計者の重要な役割だと実感した案件だった。

最適化からリデザインまでのフローには、もう一段階、私が必ず組み込むようにしているプロセスがある。それはリデザイン後の形状に対して、必ずFEM解析による再検証を行うことだ。トポロジー最適化の出力をそのまま信じるのではなく、リデザインで単純化した形状が、当初想定していた性能(剛性や強度)をきちんと満たしているかを再計算で確認する。ある案件では、リデザインの過程でフィレット半径を製造上の理由から小さくしたところ、応力集中係数が想定より大きくなり、最適化直後の形状よりも安全率が下がってしまっていたことがあった。リデザインは製造性を優先するあまり、性能面での妥協が入り込みやすい工程でもあるため、最終形状での再検証を省略しないことが重要だと考えている。

3Dプリンター製造を前提にした設計変更のポイント

トポロジー最適化と相性が良いとされる3Dプリンター(積層造形)による製造だが、実際に量産に取り入れる際には従来の機械加工とは全く異なる設計上の勘所が必要になる。私が積層造形前提の部品設計に携わった際、最初に驚いたのはオーバーハング角度の制約だった。積層造形では、下に支持がない状態で一定角度以上のオーバーハング形状を作ろうとすると、造形時に垂れ下がりや変形が生じるため、45度前後を目安にサポート材の要否が変わってくる。トポロジー最適化で出力された有機的な形状には、この角度制約を超える部分が当然のように含まれていることが多く、リデザインの段階でサポート材を前提にするか、造形方向を工夫して角度を回避するかの判断が必要になる。

もう一つ実務で重要だと感じたのが、積層造形特有の異方性(方向によって強度が異なる性質)だ。積層方向に対して垂直な力には強いが、積層の層間剥離が生じやすい方向には弱いという特性があり、これを考慮せずに設計すると、トポロジー最適化上は最適でも実際には想定より早く破損するリスクがある。ある試作部品では、積層方向を考慮せずに造形したところ、荷重試験で層間剥離による早期破断が発生したことがあった。造形方向を再検討し、主荷重の方向と積層方向がなるべく一致するように部品の置き方を変更したところ、強度は大幅に改善した。トポロジー最適化の結果を活かすには、最適化ソフトの中だけで完結させず、製造装置の特性まで踏み込んで理解しておく必要があると痛感した案件だった。

コスト面では、積層造形は機械加工と異なり、形状の複雑さそのものはコストにほとんど影響しない一方、体積(材料使用量)と造形時間がコストを大きく左右する。トポロジー最適化によって中身を大胆に肉抜きした形状は、この積層造形のコスト構造とは相性が良い。ただし量産数量が多い場合は、機械加工や鋳造のほうがトータルコストで有利になる分岐点が必ず存在する。私が携わった案件では、月産50個程度までは積層造形が有利だったが、それを超える数量になると金型を起こした鋳造のほうが安くなるという試算結果が出た。製造方法の選定は、トポロジー最適化の結果だけでなく、量産数量とセットで判断すべき事項だと考えている。

AIと設計者の役割分担をどう考えるか

冒頭で触れた「AIが設計を奪うのではないか」という懸念について、実際にトポロジー最適化を使い込んだ今の私の考えを述べておきたい。トポロジー最適化やAIを活用した生成的設計(ジェネレーティブデザイン)は、確かに「形状を生み出す」という、これまで人間の創造性の領域だと思われていた作業を代替できる。しかし、それはあくまで「与えられた条件下での最適解を計算する」能力であって、その条件そのものを正しく設定する能力は依然として人間の設計者に委ねられている。

荷重条件をどう見積もるか、どの製造方法を前提とするか、コストと性能のバランスをどこに置くか、そして出力された形状が本当に実務で使える設計として成立しているかを判断すること。これらはすべて、現場での経験と実務感覚に基づく人間の判断が必要な領域だ。むしろ私は、トポロジー最適化のようなツールが普及すればするほど、「条件設定の精度」と「結果を実務に落とし込む力」という、これまで以上に現場経験がものを言う能力が重要になってくると感じている。

実際、私が最適化ソフトを使いこなせるようになったのは、ソフトの操作を覚えたからではなく、これまでの現場経験で培った「この部品はどんな荷重を受けるか」「この製造方法ではどこまでの形状が作れるか」という土地勘があったからこそだった。ソフトの操作方法だけを覚えた新人設計者が同じソフトを使っても、実用に耐える結果を出すのは難しいだろう。

実際、生成的設計を導入している他社の設計者と情報交換をする機会があったが、そこでよく話題に上るのが「条件設定を誤ったことに気づかないまま量産に進んでしまうリスク」だった。AIやアルゴリズムが出す結果は、人間の勘や経験に基づく設計と違って、一見すると常に自信を持って提示されているように見える。だからこそ、出力された結果を鵜呑みにせず、常に「この条件設定は本当に正しいか」を問い続ける姿勢が、これまで以上に設計者に求められるようになると感じている。

社内にトポロジー最適化を浸透させるための工夫

トポロジー最適化を個人のスキルとして身につけるだけでなく、組織の中に浸透させていく取り組みも重要だと感じている。私が常駐先で経験したのは、最初にトポロジー最適化を使いこなせるのが自分一人だけという状態だった。案件のたびに自分がボトルネックになってしまい、他の設計者が同様の技術を使いたいと思っても相談できる相手がいないという状況が続いていた。

この状況を変えるために、私は簡単な社内勉強会を月1回のペースで開催することを提案した。専門的なソフトの操作方法だけでなく、実際に自分が経験した失敗事例(荷重条件の見落としで再計算になった話や、製造制約を考慮せずに使えない形状を出してしまった話など)を積極的に共有するようにした。成功事例だけを紹介する勉強会は聞き手にとって「自分にはできない特別なスキル」という印象を与えがちだが、失敗談を交えることで「自分でもやってみよう」という心理的なハードルが下がる効果を感じている。

勉強会を続けて半年ほど経った頃には、他の設計者からも「この部品でトポロジー最適化を試してみたい」という相談が自発的に来るようになった。組織にツールを浸透させるには、ソフトのライセンスを増やすだけでは不十分で、使い方の勘所や失敗の経験を言語化して共有する地道な取り組みが欠かせないと実感している。

これから設計者に求められる姿勢

トポロジー最適化に限らず、AIを活用した設計支援技術は今後さらに発展していくはずだ。CADの自動化、生成的設計、AIによる図面チェックなど、これまで設計者が手作業で行ってきた工程の一部は、確実に自動化・効率化されていく。

こうした変化に対して私が意識しているのは、「ツールに使われる側」ではなく「ツールを使いこなす側」に立ち続けることだ。そのために必要なのは、新しいツールの操作を覚えることそのものよりも、これまで現場で培ってきた「荷重の見積もり方」「製造の制約」「コストの感覚」といった実務的な土台を大切にすることだと考えている。AIやツールが賢くなればなるほど、その出力を正しく評価し、実務に落とし込める人間の価値は相対的に上がっていく。

トポロジー最適化を初めて見たときに感じた危機感は、今では「使いこなせば強力な武器になる」という前向きな感覚に変わっている。設計者としての本質的な価値は、形状を手で描く作業そのものにあるのではなく、条件を正しく見極め、結果を実務として成立させる判断力にある。AIが設計する時代だからこそ、その判断力を磨き続けることが、これからの設計者に求められる姿勢だと私は考えている。

具体的には、日々の設計業務の中で「なぜこの荷重条件を選んだのか」「なぜこの製造方法を前提にしたのか」を言語化する習慣をつけることが、AI時代の設計者にとっての基礎体力になると考えている。ツールが自動的に答えを出してくれる時代だからこそ、その答えの前提となる条件を自分の言葉で説明できるかどうかが、設計者としての価値を測る一つの指標になっていくのではないかと思っている。

ツールの進化のスピードも年々加速している。数年前までは専用の解析ワークステーションと高額なライセンスが必要だった生成的設計機能が、今では主要な3D CADソフトの標準機能として組み込まれつつある。導入コストのハードルが下がっている分、これから設計者を目指す若手にとっても、早い段階からこうしたツールに触れる機会は増えていくはずだ。だからこそベテラン設計者の側も、自分が現場で培ってきた勘所を早めに言語化し、次の世代に引き継いでいく責任があると感じている。

最後にもう一つ、私自身への戒めとして書いておきたいことがある。トポロジー最適化を使いこなせるようになった今の自分も、数年後には新しい世代のツールに対して同じように「危機感」を覚える立場になるかもしれないということだ。技術は常に更新され続け、今日の最先端は数年後には当たり前の道具になっている。大切なのは、特定のツールの操作スキルにしがみつくことではなく、新しいツールが登場するたびに、その本質を素早く理解し、現場の実務に落とし込む柔軟さを持ち続けることだと思っている。トポロジー最適化との向き合い方を通じて学んだこの姿勢を、これから登場するどんな新しい技術に対しても、同じように応用していきたいと考えている。

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