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RoHS対応設計の実務——使える材料・使えない材料の見極め方

RoHS対応設計の実務——使える材料・使えない材料の見極め方 実務ノウハウ

「この材料はRoHS対応品ですか」と客先や購買部門から問われて即答できず、後日調べ直すことになった経験がある機械設計者は少なくないはずだ。RoHS指令は電気・電子機器を主な対象としているが、近年はその機器に組み込まれる機構部品や締結部品にまで対応要求が及ぶケースが増えている。図面上の材質指定一つが後工程の大きな手戻りにつながることもあるため、今回は、現場で実際にぶつかった判断の難しさを踏まえながら、機械設計の立場からRoHS対応をどう扱うべきかを整理していく。

RoHS指令が機械設計にまで関わってくる理由

RoHS指令はもともと電気・電子機器における特定有害物質の使用を制限するEUの指令であり、鉛やカドミウム、六価クロム、水銀などが規制対象物質として定められている。電子基板やコネクタ、ケーブルといった電気部品が主な対象というイメージが強いが、実際には機器に使われるねじやばね、めっき処理された金属部品も規制対象物質を含んでいる可能性があり、機械設計者が選定する部品にも直接関係してくる。

私が担当した産業用装置の輸出案件では、装置本体は電気・電子機器そのものではないものの、内蔵する制御ユニットがRoHS対象品に該当するという理由で、機構部品を含む装置全体にRoHS適合を求められたことがあった。当初は「機械部品まで対象になるのか」と疑問に思ったが、客先の調達基準では機器全体を一つのシステムとして捉え、そこに含まれる全部品に適合を求める運用になっていた。この経験から、機械設計者であっても客先の要求次第では機構部品まで含めた材料管理が必要になるという前提で案件に臨むようになった。

こうした運用の違いは法規制そのものというより、客先ごとの品質保証部門やサプライチェーン管理の方針によるところが大きい。同じ業界の別の客先では、機構部品まで厳密なRoHS適合を求めない一方で、別の客先は装置全体を対象にするなど、対応の幅が広いのが実情だ。私はこの経験以降、案件の初期打ち合わせで客先の品質保証担当者にも同席してもらい、どの範囲までRoHS適合が求められるのかを設計着手前に明確化するようにしている。設計部門同士のやり取りだけでは、こうした調達基準の詳細まで把握しきれないことがあるためだ。

RoHS対応が必要かどうかは、最終製品の販売先や用途によって大きく変わる。国内向けの産業機械であれば当面は対象外という判断もあり得るが、海外輸出を視野に入れる装置や、将来的に電気・電子機器として分類される可能性がある製品では、早い段階から材料選定に配慮しておいた方がよい。私は新規案件を受注する際、客先に対して「この装置はRoHS対応が必要か」を必ず確認するようにしている。曖昧なまま設計を進めてしまうと、量産段階になってから材料変更を迫られ、大きな手戻りにつながるためだ。

さらに厄介なのは、案件の当初はRoHS対応不要とされていたにもかかわらず、開発の途中で客先の販売戦略が変わり、急にRoHS対応が必要になるケースだ。私が経験した案件でも、国内向けとして進めていた装置が、開発の終盤で海外拠点への展開が決まり、急遽RoHS対応の可否を確認する必要に迫られたことがある。幸い主要な部品はRoHS対応品で構成していたため大きな変更は避けられたが、この経験以降、対応不要と言われた案件でも、可能な範囲でRoHS対応品を選んでおくことをデフォルトの方針にするようになった。将来の要求変化に備えるという意味でも、初期段階での材料選定の余裕が効いてくると感じている。

めっき処理と表面処理における材料選定の落とし穴

機械部品の表面処理は、RoHS対応で最も見落とされやすいポイントの一つだと感じている。特に六価クロムを含むクロメート処理は、防錆性能に優れているため機械部品では広く使われてきたが、RoHS対応が求められる場合は三価クロム処理など代替の表面処理に変更する必要がある。

私が過去に手がけた案件では、標準部品として長年使ってきた黒色クロメート処理のボルトを、RoHS対応要求のある装置にそのまま流用しようとしたところ、購買担当者から待ったがかかったことがある。図面上の指示が「クロメート処理」とだけ記載されており、三価か六価かの区別が明確でなかったためだ。それ以降、図面には表面処理の種類を必ず明記し、RoHS対応が必要な案件では「三価クロメート処理」のように具体的な処理方法まで指定するようにしている。表記の曖昧さが後工程でのトラブルの種になることを、身をもって学んだ経験だった。

表面処理だけでなく、下地となる金属材料そのものにも注意が必要だ。真鍮部品には鉛を含む快削材が使われることがあり、RoHS対応の観点では鉛フリー材への切り替えが求められる場合がある。鉛フリー快削黄銅は機械加工性がやや劣るとされることもあるため、加工性とコストのバランスを見ながら材料メーカーと相談して選定することが多い。

私が担当したバルブ部品の案件では、従来の快削黄銅から鉛フリー材への切り替えに伴い、加工条件を見直す必要が生じた。切削抵抗が変わることで工具摩耗の進み方が異なり、加工業者から工具寿命が短くなったという報告を受けたことがある。加工コストへの影響を無視できなかったため、最終的には加工条件を調整して工具寿命を確保しつつ、コスト増を最小限に抑える落としどころを協力会社と一緒に探ることになった。材料の切り替えは設計図面上では材質記号を変更するだけの単純な作業に見えるが、実際には加工現場への影響も含めて検討する必要があるという点を、この案件で改めて認識した。図面変更を行う際は、加工を委託する協力会社にも早めに情報を共有し、想定外のコスト増や納期遅延を防ぐようにしている。

樹脂部品・ケーブル被覆材における規制物質の確認ポイント

機械装置では樹脂製のカバーやブラケット、ケーブルの被覆材などにもRoHS規制物質が含まれている可能性がある。特に古いタイプの塩化ビニル系材料には可塑剤としてフタル酸エステル類が使われていることがあり、RoHS指令の対象物質に該当する場合がある。

私が担当した搬送装置のケーブル選定では、標準品として使っていたケーブルの被覆材がRoHS対応品かどうかを確認する必要が生じ、メーカーに問い合わせたところ、同一型番でもロットによって仕様が微妙に異なることが判明した。以降、RoHS対応が必要な案件では、部品発注時にメーカーからRoHS適合証明書やSDS(安全データシート)の提出を必ず求めるようにしている。図面や仕様書に「RoHS対応品を使用すること」と記載するだけでは不十分で、実際に納入される部品が本当に適合しているかを、書類ベースで確認する運用が欠かせないと痛感した。

樹脂部品では、カバー類の成形材料だけでなく、装飾用のシールやラベルの粘着材にも注意が必要になることがある。私が携わった案件では、機械の警告表示ラベルに使われていた粘着剤に規制物質が含まれている可能性を指摘され、急遽ラベルメーカーに材質証明を依頼したことがあった。普段は意識しない小さな部材ほど、確認が漏れやすいという教訓を得た経験だった。それ以降、機械に貼り付けるラベル類や銘板といった細かな部材についても、RoHS対応が必要な案件では材料確認のリストに必ず加えるようにしている。

部品メーカーからのRoHS適合証明の取得と管理

機械設計者が自ら分析機関に依頼して材料組成を分析することは現実的ではないため、実務上はメーカーが発行するRoHS適合証明書を積み立てていく形で対応することになる。私はプロジェクトごとに使用部品のリストを作成し、各部品についてRoHS適合証明書が入手できているかを一覧で管理するようにしている。

証明書の管理で厄介なのは、部品メーカーによって証明書の書式や有効期限の考え方が異なることだ。中には特定の型番についてまとめて適合宣言を出しているメーカーもあれば、ロットごとに証明書の再発行を求められるメーカーもある。私が担当した案件では、標準部品として長年使ってきたベアリングについて、メーカーに証明書を依頼したところ、想定より時間がかかり、納期に影響が出そうになったことがあった。それ以降、RoHS対応が必要な案件では設計初期の段階で使用予定部品のリストアップとともに証明書の依頼も並行して進めるようにし、納期への影響を最小限に抑える工夫をしている。

証明書そのものの信頼性についても、一定の注意が必要だと感じている。過去に、証明書上はRoHS適合となっていた部品が、客先の抜き取り分析で規制物質がわずかに検出されたという事例を耳にしたことがある。そのケースでは、部品メーカーのサプライチェーンの途中で材料が切り替わっていたにもかかわらず、証明書の更新が追いついていなかったことが原因だったという。この話を聞いて以来、特に重要な部品については証明書を鵜呑みにせず、可能であれば部品メーカーの品質保証体制についても確認するようにしている。

標準部品を代替品に切り替える際の設計変更の注意点

RoHS非対応の材料を使っていた標準部品を代替品に切り替える際は、単純な材料置換では済まないことが多い。表面処理を変更すると寸法公差がわずかに変わることがあり、はめあい部の設計に影響する場合がある。また、材料の変更によって強度や耐食性が変わることもあるため、単純な代替とは考えず、必要に応じて再計算や再試験を行う必要がある。

私が経験した案件では、RoHS対応のためにクロメート処理からニッケルめっきに変更したところ、めっき厚のばらつきによって嵌合部にわずかな寸法差が生じ、組付け時に若干の渋さを感じるという報告が現場から上がったことがあった。図面上の公差は満たしていたものの、処理方法の違いによる仕上がりの微妙な差が影響していた。この経験から、表面処理を変更する際は公差の再確認だけでなく、実際に試作品で組付け性を確認する工程を省略しないようにしている。

耐食性についても同様の注意が必要だ。六価クロメート処理は防錆性能が高く評価されてきた背景があり、三価クロメートや代替のめっき処理に切り替えると、同等の耐食性を確保するために処理厚を増やす、あるいは追加のトップコートを施すといった対応が必要になる場合がある。私が担当した屋外設置の装置では、代替表面処理への切り替え後に塩水噴霧試験を実施し、旧処理と同等の耐食性能が確保できているかを確認する工程を追加した。試験の結果、初回の処理条件では旧処理と比べてわずかに耐食性が劣るという結果が出たため、処理業者と相談してめっき厚の仕様を見直し、再試験で問題ないことを確認してから量産に移行した経緯がある。表面処理の変更は見た目には小さな図面修正でも、性能面での検証を伴う設計変更として扱うべきだと考えている。

客先ごとに異なるRoHS運用基準への対応

RoHS指令そのものはEUの法規制だが、実際の運用は客先ごとにかなり幅がある。ある客先は指令の対象物質のみを厳密にチェックする一方、別の客先はRoHS指令を超えて独自に規制物質を追加した基準を設けていることもある。私が担当した海外向け装置の案件では、客先独自の禁止物質リストにRoHS指令の対象物質以外にも複数の物質が含まれており、通常のRoHS対応部品では基準を満たさないことが分かった経緯がある。

このような客先独自基準への対応では、標準的なRoHS対応部品カタログだけを頼りにするのではなく、客先が提示する禁止物質リストと部品のSDSを一つずつ突き合わせる地道な作業が必要になる。私はこうした案件では、部品リストと禁止物質リストを一覧表にまとめ、該当の可能性がある物質については部品メーカーに個別に確認を取るという進め方をしている。手間のかかる作業だが、後から不適合が発覚して量産をストップさせるリスクを考えれば、初期段階でしっかり時間をかける価値があると考えている。

客先ごとの基準の違いは、同じ部品でも案件によって使える・使えないが変わるという厄介さを生む。標準化を進めたい機械設計者にとっては悩ましい状況だが、規制対応である以上は個別対応を避けて通れない。私は複数の客先案件を並行して担当することもあるため、部品ごとに「どの客先基準までクリアしているか」を管理表に整理し、案件を跨いで使い回せる部品かどうかを判断できるようにしている。こうした管理をしておかないと、ある案件でRoHS対応品として承認された部品を、別の客先の独自基準を満たさないまま流用してしまうリスクがあるためだ。

設計段階からRoHS対応を組み込むための社内ルール化

これまでの経験を踏まえ、私はRoHS対応が必要な案件に着手する際のチェックリストを自分なりに整備している。表面処理の指定方法、使用予定部品のRoHS証明書の入手状況、樹脂部品やケーブル類の被覆材確認、客先独自基準の有無といった項目を、設計の初期段階で必ず確認するようにしている。

RoHS対応は量産開始後に問題が発覚すると手戻りの規模が大きくなりやすいテーマだ。だからこそ、機械設計者自身が「電気部品だけの話」と捉えず、自分が選定する機構部品や締結部品にも規制の目を向けることが重要だと感じている。今後も客先の要求や規制の動向を注視しながら、材料選定の判断基準をアップデートしていきたい。

参考までに、私が案件ごとに確認しているRoHS対応チェック項目を簡単な表にまとめておく。

チェック項目 確認内容
表面処理の指定 三価クロメート等、処理方法まで図面に明記
金属材料の材質 鉛フリー材への切り替えの要否を確認
樹脂・ケーブル被覆材 可塑剤や難燃剤の含有物質を確認
ラベル・銘板の粘着材 見落としがちな部材として個別確認
RoHS適合証明書 部品ごとに入手状況を一覧管理
客先独自基準 RoHS指令以外の追加規制物質の有無を確認

こうしたチェック項目は固定的なものではなく、案件を重ねるたびに追記している。RoHS対応は法規制の改訂や客先の運用変更によって求められる水準が変わることもあるため、一度作ったチェックリストに満足せず、定期的に見直す姿勢を持ち続けたいと考えている。

社内での情報共有と若手設計者への引き継ぎ

RoHS対応の知見は、担当した本人だけが把握している状態では組織として脆弱だと感じている。属人化した知識は、その担当者が案件から離れた瞬間に失われてしまうリスクがあり、組織としては大きな損失になる。私は過去の案件で得た材料選定の判断基準や、トラブルになった事例を簡単な資料にまとめ、一緒に仕事をする若手の設計者にも共有するようにしている。特に表面処理の指定方法や、証明書の依頼先といった実務的なノウハウは、規格書を読んだだけでは身につきにくく、実際にトラブルを経験した人間の話を聞く方が理解が早いことが多い。

RoHS対応に限らず、規制対応というテーマは地味で後回しにされがちだが、一度不適合が発覚すると量産のストップや客先からの信頼低下、最悪の場合は取引停止にまでつながりかねない重い問題だ。機械設計者としてできることは限られているかもしれないが、自分が選ぶ材料一つひとつに規制の視点を持ち続けることが、結果的に装置全体の品質と信頼性を支えることにつながると考えている。地道な確認作業の積み重ねこそが、規制対応の本質だと日々感じている。

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