はじめに
機械装置で液体・気体の漏れを防ぐには、適切なシールの選定と設計が欠かせません。
シール選びを誤ると、漏れ・摩耗・装置の損傷につながります。
この記事では、設計者が知っておくべきシールの種類と選定・設計のポイントを解説します。
シールの分類
シールは大きく2種類に分けられる:
【静的シール(Static Seal)】
互いに動かない部品間をシールする
例:フランジ面・蓋・ボルト締結部
【動的シール(Dynamic Seal)】
動く部品(軸・ロッド)と固定部品の間をシールする
例:回転軸のオイルシール・シリンダーのロッドシール
静的シールの種類
Oリング(最も一般的な静的シール):
断面が円形のゴム製リング
→ 溝に入れてつぶす(圧縮代を設ける)ことでシールする
→ JIS B 2401で規格化されており、溝寸法の設計基準がある
ガスケット:
2つの平面間にはさんで使うシート状シール材
→ 材質:ゴム・非石綿系・金属(高温高圧用)
→ フランジ接合に多く使われる
液体ガスケット(嫌気性シール剤):
ネジ穴・合わせ面に塗布して硬化させる
→ 少量の漏れが許容できない部位に使う
動的シールの種類
オイルシール(リップシール):
回転軸と固定ハウジング間をシール
→ ゴム製リップが軸に密着してオイルの漏れを防ぐ
→ 取付け向きに注意(リップが油側に向く方向)
Uパッキン(Vパッキン):
直線往復運動するロッド・シリンダー用
→ 断面がU字形。圧力が高いほどリップが広がりシール力が増す
Oリング(動的用途):
低圧・低速の往復動や回転動に使用可能
→ 静的用途より溝寸法・クリアランスが厳しい
メカニカルシール:
回転軸の高速・高圧用途(ポンプ等)
→ 固定環と回転環の研磨された面同士で接触シール
→ 選定・設計は専門性が必要
Oリング溝の設計基本
JIS B 2401に溝寸法の設計基準がある。
確認項目:
□ つぶし代(Compression Rate):通常10〜30%
□ バックアップリングの要否:高圧(10MPa以上)では使用
□ 溝底面の仕上げ:Ra3.2程度
□ 溝側面の仕上げ:Ra1.6程度
□ 面取り:Oリング挿入のためのC面取りを設ける(傷防止)
材質の選択:
NBR(ニトリルゴム):鉱物油・水 一般的な選択
FKM(フッ素ゴム):耐熱・耐薬品性が高い
EPDM:水蒸気・ブレーキ液
シリコーン:広い温度範囲、食品機械
シール設計のよくある失敗
失敗①:Oリングの溝寸法が規格と違う
→ つぶし代が不足・過剰 → 漏れ・シールの変形・摩耗
→ 必ずJIS B 2401の溝寸法表に従う
失敗②:面取りを入れ忘れた
→ Oリング挿入時にリップが傷ついて初期漏れが起きる
失敗③:材質が使用流体に合っていない
→ NRB(天然ゴム)に鉱物油 → 膨潤・劣化
失敗④:動的シールの軸面粗さが粗い
→ 軸表面の凸凹がシールリップを早期摩耗させる
→ 軸の仕上げ精度(Ra0.8〜1.6)を図面に明記する
動的シールの寿命と交換周期の考え方
静的シールは基本的に「組んだら動かない」ため設計値通りの寿命が期待できますが、動的シールは摩耗が前提の消耗品という考え方が必要です。20年の現場経験から見えてくる寿命の傾向は次の通りです。
①摺動速度と面圧が寿命を決める:オイルシールもUパッキンも、リップにかかる面圧と摺動速度の積(PV値)が大きいほど摩耗が早い。カタログに記載されたPV値の上限を超える使い方をすると、想定より大幅に早く漏れが始まる。
②潤滑切れが摩耗を一気に加速させる:シールリップは薄い油膜で守られている前提で設計されている。潤滑油が枯渇すると、リップと軸が直接接触してあっという間に摩耗が進行する。給油系統の点検頻度をシール寿命と合わせて設計する。
③粉塵・異物の巻き込み:屋外や粉塵の多い環境では、ダストシール(防塵リップ)を追加しないと、リップと軸の間に異物が噛み込んで早期摩耗を起こす。使用環境が過酷なほど、シールは単体でなく「ダストシール+オイルシール」の二重構成を検討する。
面圧とつぶし代の関係
Oリングのシール性能は「つぶし代(圧縮率)」でおおよそ決まりますが、実務ではもう一段掘り下げて面圧で考えると失敗が減ります。
つぶし代と面圧の関係:つぶし代を大きくするほどOリングの反発力(面圧)が上がり、シール性は向上するが、摩擦抵抗と摩耗も増える。静的シールではつぶし代を大きめ(20〜30%)に取っても問題になりにくいが、動的シールでは摩擦・発熱・摩耗の観点から10〜15%程度に抑えるのが一般的。
硬度(デュロメータ)による違い:同じつぶし代でも、ゴムの硬度(Hs)が高いほど面圧は大きくなる。低圧用途では柔らかめ(Hs70程度)、高圧用途では硬め(Hs90前後)を選ぶことで、必要な面圧と耐圧性のバランスを取る。
温度変化への配慮:ゴムは温度によって体積が変化するため、高温環境ではつぶし代が想定以上に大きくなり、低温環境では逆に不足して漏れることがある。使用温度範囲が広い装置では、常温だけでなく上限・下限温度でのつぶし代も確認しておくと安心です。
FAQ
Q. Oリングとオイルシール、どちらを動的用途に使うべきですか?
A. 用途で決まります。低圧・低速の単純な往復動や回転動ならOリングでも対応できますが、連続回転する軸には専用設計のオイルシールの方が寿命・信頼性で優れます。判断に迷ったら、まず軸の回転速度と使用時間(連続運転か間欠運転か)を確認するのが第一歩です。
Q. シールから漏れが発生したとき、真っ先に疑うべき原因は?
A. 経験上もっとも多いのは「取付け方向のミス」と「軸の摩耗・傷」です。オイルシールはリップの向きを間違えると初期段階から漏れます。また軸に周方向の傷(キズ)があると、その筋に沿って漏れ続けるため、シール交換だけでなく軸側の状態も必ず確認します。
Q. 高温環境(100℃以上)でのシール選定はどう考えればいいですか?
A. NBRは耐熱性が低く(目安80〜100℃)、高温になるほど急速に劣化します。100℃を超える環境ではFKM(フッ素ゴム)が定番の選択肢で、200℃近くまで対応できる製品もあります。ただしFKMはコストが上がるため、常用温度と瞬間的な最高温度を分けて必要十分な材質を選ぶのが実務的です。
Q. メカニカルシールとオイルシール、選定の分かれ目はどこですか?
A. 圧力・速度・許容漏れ量で判断します。オイルシールは構造が単純でコストも安く、一般的な回転軸には十分対応できますが、高圧・高速回転(ポンプの軸封等)になるとリップが追従しきれず摩耗が早まります。そうした条件ではメカニカルシールの方が長寿命かつ確実で、初期コストは高くてもトータルでは有利になるケースが多いです。
シール選定チェックリスト(図面提出前)
□ 静的シールか動的シールかを明確にしたか
□ Oリング溝寸法はJIS B 2401に準拠しているか
□ 面取り(C面取り)を挿入部に入れたか
□ 材質は使用流体・温度に適合しているか
□ 動的シールの軸面粗さを図面に明記したか
□ 高温・低温それぞれでつぶし代を確認したか
□ 粉塵環境ならダストシールを併用しているか
関連トピックと次のステップ
シール設計と相性が良いのが「パッキンの種類・用途」と「配管・ホースの配策」です。継手部のシール性能を押さえておくと、装置全体の漏れトラブルを一気通貫で減らせます。
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