はじめに
機械設計者として20年、外部設計事務所の立場で大手メーカーに常駐し、産業機械の部品設計をしてきた。
「ネジで止める」「溶接する」と並んで、最近重要性が増しているのが接着だ。
異種材料の接合、振動吸収、シール兼用、軽量化——接着でしか実現できない設計が増えてきた。
私自身、若い頃は「接着=瞬間接着剤」程度の認識で、ある装置で「ここ接着で固定して」と言われ、市販のセメダインABを使い、半年で剥がれて再設計になった。
あれ以来、接着剤の世界が想像以上に奥深いことを思い知った。
この記事では、エポキシ・シリコン・ウレタンという代表的3種を中心に、機械設計での接着剤選定実務を整理する。
接着とは何か——なぜ接着剤で物がくっつくか
接着強度には2つの要素がある。
1. 凝集力:接着剤自身の引張強さ
2. 接着力(界面接着):被着体と接着剤の界面の結合力
接着剤の機械的強度は、凝集力と界面接着のうち、小さい方で決まる。
界面接着には化学結合・物理吸着・アンカー効果(粗面のひっかかり)が関与する。
これが分かると、接着の世界が一気に理解しやすくなる。
「強いはずの接着剤が剥がれた」とき、原因は凝集破壊か界面破壊か、見極めることが対策の第一歩だ。
エポキシ系接着剤——構造接着の本命
特徴
エポキシ樹脂は2液(主剤+硬化剤)の反応硬化型。
室温〜加熱で硬化、硬化後は非常に高い強度と耐熱性を持つ。
物性
- 引張せん断強度:20〜40MPa
- 耐熱:80〜200℃(タイプによる)
- 硬化時間:常温24時間、加熱1時間程度
- 接着可能素材:金属、ガラス、セラミック、樹脂、複合材
代表製品
| メーカー | 製品名 | 用途 |
|---|---|---|
| ヘンケル(ロックタイト) | EA9450, EA9394 | 構造接着 |
| スリーボンド | TB2086, TB2200 | 一般構造、電子部品 |
| セメダイン | EP001N, EP330 | 一般・電子 |
| 3M | DP460, DP110 | 構造、急速硬化 |
私の現場での使い方
- 金属同士の構造接着(軽量化目的)
- 異種材料接合(金属+GFRP、金属+セラミック)
- 振動を受けるブラケットの補強
ある産業機械メーカーで、アルミハウジングと鉄製ブラケットの接合にヘンケルEA9394を使った。
リベットや溶接では熱歪み・電食の懸念があったが、エポキシ構造接着で解決。
10年経過後も剥離なし。
注意点
- **表面処理が命**:脱脂、サンドペーパー研磨(#240〜#400)、プライマー塗布
- **クリアランス管理**:接着代0.05〜0.2mm、厚すぎると凝集破壊
- **硬化条件遵守**:温度・時間が不足だと強度半減
失敗談
私が常駐したある半導体装置メーカーで、エポキシ接着指示の部品が剥離トラブル。
原因は被着面の油分清浄不足。アセトン脱脂を3回指示するように図面注記を変えて再発防止した。
シリコン系接着剤——耐熱・耐候・シール兼用
特徴
シリコン樹脂は柔軟性が高く、耐熱・耐候性に優れる。
1液縮合型(空気中の湿気で硬化)が多く、施工が簡単。
物性
- 引張強度:1〜3MPa(柔らかい)
- 伸び:100〜500%
- 耐熱:-50〜+200℃(特殊品は300℃)
- 硬化時間:常温24時間(24h/3mm)
代表製品
| メーカー | 製品名 | 用途 |
|---|---|---|
| 信越化学工業 | KE-45系、KE-3490 | 一般、電子 |
| 東レ・ダウコーニング | SE9156, SE9186 | 工業 |
| スリーボンド | TB1207, TB1217 | 自動車、装置 |
| セメダイン | 8060系 | 建築、装置 |
私の現場での使い方
- ガスケット代替(液状ガスケット)
- 防水シール
- 配線・コネクタの固定+防水
- 制振・防振用途
ある食品機械でステンレスカバーの防水シールに信越KE-45を使用。
従来のゴムパッキンより設計自由度が高く、複雑な合わせ面でも対応可。
洗浄薬品(次亜塩素酸)にも耐えて10年以上問題なし。
注意点
- **接着強度は低い**:構造接着には不向き
- **金属腐食に注意**:脱酸型シリコンは酢酸を発生、銅・銀を腐食
- **塗装下地不可**:シリコン上に塗装ができない
食品機械での使用注意
食品接液部に使うときは食品衛生法・FDA認証品を選ぶ。
信越のKE-3490食品グレード、東レDC791食品グレードなど。
通常品を使うと食品安全規格違反になるので、調達時に必ず確認する。
ウレタン系接着剤——柔軟構造接着の主役
特徴
ウレタン樹脂はエポキシとシリコンの中間的特性。
強度はエポキシより低いが、柔軟性と耐衝撃性に優れる。
1液または2液型がある。
物性
- 引張せん断強度:5〜20MPa
- 伸び:50〜400%
- 耐熱:-40〜+120℃
- 硬化時間:1〜24時間
代表製品
| メーカー | 製品名 | 用途 |
|---|---|---|
| ヘンケル(テロソン) | Terostat-9220, 8590 | 自動車ガラス |
| スリーボンド | TB1180シリーズ | 自動車、装置 |
| セメダイン | UM700, UH015 | 一般、建築 |
| サンスター技研 | ペンギンセメント | 自動車内装 |
私の現場での使い方
- 自動車のフロントガラス接着(テロソン)
- 振動を受ける異種材料接合
- 建築の外装パネル接着
- ゴム-金属接着
ある搬送装置でゴムローラと金属シャフトの接着にスリーボンドTB1180を使用。
ローラの摩耗時にも振動を吸収しつつ、剥離なし。
ウレタンの柔軟性が活きる典型例。
注意点
- **湿気管理**:1液ウレタンは湿気硬化、開封後は早めに使い切る
- **UV劣化**:屋外は耐候性タイプを選ぶ
- **金属下地処理**:プライマー必須(メーカー指定品を使う)
その他の重要接着剤
嫌気性接着剤(ネジゆるみ止め、軸固定)
ロックタイト243(中強度ネジロック)、262(高強度)、638(軸受固定)が定番。
空気を遮断すると硬化する特殊な接着剤。
ネジ部のゆるみ止め、軸と歯車の固定、ハウジングと軸受の隙間埋めに使う。
私の現場では、ボルトサイズM6以上はロックタイト243が標準指示。
振動の多い装置では必須。
シアノアクリレート(瞬間接着剤)
東亞合成のアロンアルファ、ヘンケルのロックタイト401など。
- 硬化数秒、強度10〜20MPa
- 衝撃・湿気・温度に弱い
- 小物部品の仮固定、ゴム-樹脂接着
設計の本来用途というより、現場の補修や治具用途が中心。
ホットメルト
熱可塑性樹脂を加熱溶融して塗布、冷却で固化。
製本、段ボール、樹脂部品の接合。
機械設計では使用機会少ないが、軽量・速硬化が必要な箇所で検討。
アクリル系(SGA)
セメダインメタルロック、ロックタイトSpeedbonderなど。
2液性で高速硬化(数分)、構造強度。
エポキシより速く硬化、自動車部品で増加中。
接着剤選定の判断軸
軸①:強度要求
- 構造接着(高強度) → エポキシ、SGA
- 柔軟接着(中強度) → ウレタン
- シール・固定(低強度) → シリコン、嫌気性
軸②:耐熱要求
| 温度 | 推奨 |
|---|---|
| ~80℃ | 全種使用可 |
| 80〜120℃ | エポキシ、ウレタン |
| 120〜200℃ | エポキシ(高耐熱品)、シリコン |
| 200℃以上 | シリコン(特殊)、無機系 |
軸③:被着材料
| 被着材 | 第一選択 |
|---|---|
| 金属同士 | エポキシ、SGA、嫌気性 |
| 金属-樹脂 | エポキシ、ウレタン |
| 樹脂-樹脂 | シアノアクリレート、エポキシ |
| ガラス | エポキシ、ウレタン |
| ゴム | ウレタン、シアノアクリレート |
軸④:施工性
- 1液 → シリコン、ウレタン、嫌気性、瞬間
- 2液 → エポキシ、ウレタン、SGA
私が現場で痛い目を見た例
ケース1:接着面処理不足
エポキシで金属接着したが、被着面に油残り。
半年で剥離、再設計。
脱脂・研磨・プライマーは省略不可。図面注記に明記。
ケース2:シリコン上に塗装
シリコンシール後に塗装したら、塗料がはじかれてマスキング不可。
シリコンは塗装下地にならない。順序を変えて塗装後シールに変更。
ケース3:ロックタイト不適切選定
軸固定にロックタイト243(中強度)を使い、再分解で軸が抜けない。
高強度の638は分解前提なら使うべきでなかった。
「分解するか否か」で強度選定するのが基本。
ケース4:ウレタンの硬化不良
1液ウレタンを湿度の低い冬場(湿度30%以下)で施工し、半年経っても表面しか硬化せず。
湿度40%以上、温度10℃以上を遵守。
接着剤メーカーとの付き合い方
接着剤は専門メーカーの技術サポートが充実している。
仕様で迷ったら相談すると最適品を提案してくれる。
- **ヘンケル(ロックタイト)**:構造接着、嫌気性が世界トップ
- **スリーボンド**:自動車・装置産業に強い
- **セメダイン**:一般工業から建築まで幅広い
- **3M**:両面テープ、構造接着
- **信越化学**:シリコン国内シェアトップ
- **東亞合成**:シアノアクリレート国内最大手
サンプルやテストデータを提供してくれるので、迷ったら問い合わせるのが早い。
おわりに
接着は、ネジ・溶接に並ぶ第3の接合技術として、機械設計の世界で確実に存在感を増している。
特に異種材料接合、軽量化、振動吸収は接着でしか実現できない領域だ。
20年やってきて感じるのは、接着剤を「ホームセンターのチューブ」感覚で選ばないということ。
物性データを読み、被着材と環境を考え、メーカーに相談する——この一手間で、設計品質が大きく変わる。
ロックタイト、スリーボンド、セメダインのカタログを手元に置いておくと、図面指示が一段精密になる。
若い設計者には、ぜひ一度メーカーの技術セミナーに参加することをおすすめする。
設計×現場ラボ|sekkei-tech.com



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