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機械設計者のための温度計入門——測温抵抗体と熱電対の原理と選び方

実務ノウハウ

機械設計者にとって温度計は「あれば付ける」程度の存在になりがちだ。私自身、駆け出しのころは「Pt100」と「Kタイプ熱電対」の違いも曖昧なまま、装置仕様書に書かれていた型番をそのまま部品表に流していた。だが20年現場にいて、いまでは「ここはPt100にすべきだった」「Kタイプの方が安くて装置が止まらなかった」という判断ミスを何度も見てきた。温度計選定は地味だが、装置の制御精度と保守性を直接決める設計判断だ。

私は機械設計の現場に20年いて、いまは大手メーカーに外部設計者として常駐している。担当する装置は射出成形機の温調・乾燥機・恒温槽・加熱炉周辺・自動機の温度監視など多岐にわたり、温度センサーを使わない案件はほぼない。本記事では現場で出会う代表的な2方式——測温抵抗体(RTD:Pt100/Pt1000)と熱電対(K/J/T/Eタイプ等)——の原理・特性・選び方を整理する。サーミスタや放射温度計は別の機会に。

温度計測の基本——なぜ2方式が併存しているのか

工業用の温度計は大きく分けて「測温抵抗体(RTD: Resistance Temperature Detector)」「熱電対(Thermocouple)」「サーミスタ」「放射温度計(非接触)」の4方式がある。装置に組み込んで使うのは前2者が9割で、残りは特殊用途だ。なぜ2方式が併存しているかというと、それぞれ得意な温度範囲と精度・コストが大きく違うからだ。

ざっくり言えば、測温抵抗体は「-200〜+650℃の比較的低温域で、高精度(±0.1〜0.3℃)が必要なとき」、熱電対は「-200〜+1700℃まで広く対応し、コストを抑えつつ高速応答(応答時間1秒以下)が欲しいとき」に選ぶ。射出成形機のホットランナー(200〜350℃)はKタイプ熱電対が定番、恒温槽(0〜80℃)の制御用はPt100が定番、というのが業界の常識だ。

私が新規装置で温度計選定をするときの判断順は、第一に「測定温度範囲」、第二に「要求精度」、第三に「応答速度」、第四に「使用環境(振動・電磁ノイズ・腐食性ガス)」、第五に「コストと供給性」。この5項目を埋めると、Pt100か熱電対か、熱電対なら何タイプかが自動的に決まる。

測温抵抗体(RTD:Pt100・Pt1000)——白金抵抗の原理と特性

測温抵抗体は、金属の電気抵抗が温度上昇とともに増加する性質を利用したセンサーだ。代表は白金(Platinum)を素線に使ったPt100で、0℃で100Ω、100℃で138.51Ωという具合に、ほぼリニアに抵抗値が変わる(IEC 60751・JIS C 1604準拠)。最近はPt1000(0℃で1000Ω)も増えており、リード線抵抗の影響を受けにくいため2線式配線で済む利点がある。

精度はクラス分けされていて、JIS A級で±(0.15+0.002|t|)℃、B級で±(0.3+0.005|t|)℃。0℃付近の高精度測定ではA級を選ぶ。装置側の制御計(オムロンE5CCシリーズ、富士電機PXRシリーズ等)の入力もこれに合わせて設定する。温度範囲は実用上-200〜+650℃で、特に-50〜+200℃の領域では精度・安定性・再現性で熱電対を圧倒する。

配線方式は2線式・3線式・4線式の3種類がある。2線式は配線抵抗が誤差にそのまま乗るので装置近接設置のみ。3線式は配線抵抗をキャンセルする補正回路を制御計側が持つので、現場〜制御盤の距離が10m程度までなら標準的に使われる。4線式は配線抵抗を完全にキャンセルでき、研究室・校正用・高精度測定に使う。装置設計のデフォルトは3線式と覚えておけばまず外さない。

過去の失敗で印象的なのが、ある恒温槽の温度センサーをPt100の2線式で配線し、制御盤から15m離して取付けた案件。配線抵抗が片道2Ω、往復4Ωで誤差が約10℃も乗ってしまい、設定50℃なのに実温度40℃で全然合わなかった。3線式に変更したら誤差は0.2℃に収まった。配線方式の選択を軽く見ると、計測器自体がいくら高精度でも意味がない。

Pt100のシース(保護管)は、SUS316L・インコネル・セラミックなどから選ぶ。一般環境ならSUS304かSUS316Lで十分、塩素ガス・酸性環境ならインコネル600、800℃以上の高温域ならセラミック(アルミナAL2O3)を選ぶ。シース外径はφ3.2mm・φ4.8mm・φ6.4mm・φ8mmが標準で、応答性を上げたければ細径を、機械的強度を取りたければ太径を選ぶ。φ3.2mm・SUS316Lシースが装置設計の定番で、応答時間(63%応答)は水中で約5秒、空気中で約30秒だ。

熱電対(K・J・T・E・R・Sタイプ)——ゼーベック効果と各タイプの使い分け

熱電対は、2種類の異なる金属線を接合して回路を作ったとき、両端の温度差に比例した起電力(熱起電力)が発生する現象(ゼーベック効果)を利用したセンサーだ。1821年にトーマス・ゼーベックが発見した古い物理現象で、いまも産業用温度計測の主役を張っている。

代表的なタイプはアルファベットで分類されていて、Kタイプ(クロメル-アルメル、-200〜+1370℃、±2.2℃または±0.75%)、Jタイプ(鉄-コンスタンタン、0〜+750℃、±2.2℃)、Tタイプ(銅-コンスタンタン、-200〜+350℃、±1℃)、Eタイプ(クロメル-コンスタンタン、-200〜+900℃、±1.7℃)、Rタイプ・Sタイプ(白金ロジウム-白金、0〜+1480℃、±1.5℃以上、貴金属高価)などがある。

装置設計で圧倒的に多用されるのはKタイプで、JIS C 1602で規定されている。射出成形機のシリンダ温度・ホットランナー温度・乾燥機・小型炉・ヒーター温度監視など、200〜800℃の領域はほぼKタイプで設計する。理由は単純で、価格が安く(Pt100の1/3〜1/2)、応答が速く(細径シース熱電対は応答時間0.5秒以下)、温度範囲が広いからだ。

Jタイプは欧米でよく使われるが、日本ではあまり見かけない。鉄が含まれるので酸化雰囲気で寿命が短い欠点がある。Tタイプは低温域(特に-100℃以下)の精度が良いので、冷凍機・低温槽の温度測定に使う。Eタイプは熱起電力が大きいので微小温度差の検出に向く。R・Sタイプは1,000℃以上の高温炉用で、貴金属を含むため高価(1本数万円)。

過去にこんな失敗があった。乾燥炉(最高使用温度300℃)の温度センサーを「念のため」とRタイプ熱電対で設計したら、調達コストが想定の5倍になり、装置全体の見積もりが破綻した。300℃ならKタイプで十分(耐熱余裕も十分)で、安易に「高級」を選ぶとプロジェクトが赤字になる。タイプ選定は「使用温度範囲+200℃の余裕」を目安に、必要最小限の性能で選ぶのが鉄則だ。

熱電対のシース構造もRTDと同様で、シース材質(SUS316L・インコネル600・ハステロイ・セラミック)とシース外径(φ1.0〜φ8.0mm)を組み合わせる。応答性を最優先にする射出成形機のホットランナーでは、シース径φ1.0mm・先端接地形(シース内壁と熱電対線が短絡している構造)が定番で、応答時間0.3秒以下だ。

接地形か非接地形か、という選択も実務では重要だ。接地形は応答速度が速いが、シースから電気的にアースされるので、ノイズ環境では計測器側にトラブルが出ることがある。非接地形は応答が0.5〜1秒遅くなるが、絶縁されているのでノイズに強い。インバータ・サーボ周辺に取り付けるなら非接地形を選ぶ。

RTD vs 熱電対——選定マトリクスと判断軸

ここまでの内容を、現場で使える選定マトリクスにまとめておく。

比較項目 Pt100(RTD) Kタイプ熱電対
温度範囲 -200〜+650℃ -200〜+1370℃
標準精度 ±0.3℃(B級) ±2.2℃
応答時間(水中φ3.2) 5秒 0.5秒(φ1.0)
配線 3線式・補償抵抗管理 補償導線(タイプ専用)
価格目安 8,000〜15,000円 3,000〜8,000円
ノイズ耐性 強い(電流変化が小さい) 弱い(mVオーダー)
寿命 長い(10年以上) 中(1〜5年で劣化)
代表用途 恒温槽・空調・低温炉 射出成形・乾燥炉・加熱炉

選定の判断軸は明快だ。「精度0.5℃以下が必要で500℃以下」ならPt100、「応答0.5秒以下が必要、または500℃を超える」ならKタイプ。両者の境界が曖昧な領域(精度1℃前後、温度300℃前後)は、コストと供給性で決める。

注意点として、熱電対には「補償導線」というタイプ別の専用ケーブルを使う必要がある。K用補償導線はJX-G(一般用)・KX-H(耐熱)などがあり、これを通常のIV線で代用すると基準接点温度補償が狂って計測値が大きくズレる。装置盤内の配線は補償導線で、盤外への引き出しは制御計内で変換した後に通常ケーブルで送る、というのが標準的な構成だ。Pt100は通常のIV線3心で配線可能で、この点でも扱いが楽だ。

装置への取付け——保護管・継手・取付穴設計のポイント

センサー単体を選んでも、装置への取付け構造がまずいと現場で痛い目を見る。私が温度センサー取付けで気をつけているポイントを4つ挙げておく。

第一に「保護管の差し込み長さ」。流体温度を測るなら配管径の2/3以上を差し込む。これを浅くすると流体本体ではなく管壁温度を計ってしまい、誤差が大きくなる。第二に「先端位置」。固体加熱(金型・ヒーター)なら、熱源と被加熱物の中間ではなく被加熱物の表面近くに取り付ける。間に空間を作ると応答が遅れて制御がハンチング(振動)する。

第三に「継手とシール」。M16×1.5やG1/2の保護管継手を使い、Oリング(NBR・FKM)またはガスケットで気密を取る。高温配管ではテフロンガスケットだと300℃で劣化するので、グラファイトシートかメタルガスケットを選ぶ。第四に「センサー固定方法」。サーミスタや細径センサーは振動でリード線が断線しやすいので、必ず取付ブラケットでケーブルを支持し、センサー本体に応力がかからないようにする。

過去にこんな失敗をした。射出成形機のホットランナーマニホールド温度をKタイプ熱電対で測定する設計で、保護管をマニホールド外周に押し付けるだけの構造にしたら、運転中の熱膨張で密着が外れて測定値が30℃低く出た。慌てて先端をφ4タップ穴に差し込んでネジ固定する構造に変更したら、誤差は2℃以内に収まった。「センサーが熱源に密着しているか」は設計図段階で必ずチェックすべき項目だ。

制御計と組み合わせるときの注意——アナログ入力・通信・分解能

最後に、温度計を選んだら必ずペアで考えるのが「制御計(温調器・データロガー・PLC)」だ。装置設計の実務では、センサー単体の精度だけでなく、制御計の入力分解能・サンプリング周期・出力形式(リレー・SSR・4-20mA・通信)を合わせて検討する必要がある。

たとえばオムロンE5CC(汎用温調器)のPt100入力分解能は0.1℃、Kタイプ入力分解能は1℃、サンプリング周期は250ms。これに対して温度上昇率が10℃/秒を超える装置(小型ヒーターの立ち上げなど)ではサンプリングが追いつかず、オーバーシュートが起きる。こうした場面では高速サンプリング機(理化工業REX-Cシリーズ、サンプリング100ms)に変えるか、デジタル通信(Modbus・RS485)でPLCに直接取り込む構成にする。

私の感覚では、装置の温度制御の8割はオムロンE5CC・E5DC・富士PXR・理化工業REX-C100あたりの汎用機で十分回る。残り2割(精密な恒温槽・半導体製造装置・特殊炉)でWatlow・Eurotherm・Honeywellなどの高機能機を選ぶことになる。仕様書段階で制御計とセンサーを一体で選定しないと、後から「制御計の分解能が足りない」「サンプリング周期が遅い」というトラブルになる。

温度計測は地味な領域だが、装置の制御精度・温度暴走の防止・歩留まり・エネルギー消費——すべてに直結する。本記事のPt100と熱電対の特性を頭に入れて、装置仕様に応じて確実に選び分けてほしい。「迷ったらKタイプ」は便利な指針だが、それでは済まない場面が確実にあると覚えておくのが、20年現場の私からのアドバイスだ。

校正と検定——測定値の信頼性を担保する仕組み

温度計を装置に組み込むだけでは、長期的な測定信頼性は担保されない。校正と検定の体系を理解しておくと、品質保証・トレーサビリティ確保の場面で困らない。

校正には「工場出荷時校正(メーカ校正書付き)」「定期校正(ユーザ実施・1〜2年周期)」「現場点検(毎日・週次)」の3段階がある。Pt100や熱電対をメーカから購入する際は「校正書付き」を指定すれば、3〜5点での校正データが添付されてくる(追加料金1万円程度)。製薬・食品・半導体製造といったトレーサビリティ要求が厳しい業界では必須。

定期校正は社内の標準温度槽(ヒーター付き油浴・水浴)または外部校正機関(日本電気計器検定所、コニカミノルタなど)に依頼する。装置に組み込んだままの校正は困難なので、設計段階で「校正のために抜けるか」を意識する。具体的にはユニオン継手(SUS製)でセンサー本体を着脱可能にしておく構造が望ましい。

現場点検は装置の運転前に「氷点(0℃)」「沸点(100℃)」の2点を簡易確認するのが基本。氷水を作って差し込めば0℃、沸騰水で100℃。これで±2℃程度の異常は捕まえられる。

装置内部の温度計配置例——射出成形機・乾燥炉・恒温槽

具体例として、3種類の装置での温度計配置を整理する。

射出成形機(シリンダ温度制御):シリンダ周囲5〜6ヶ所にKタイプ熱電対φ3.2シース・先端接地形を埋め込み、それぞれを独立PID制御で温度制御。ホットランナーマニホールド側も同様に8〜12点監視。応答性が最重要で、シース径φ1.0の細径を選ぶこともある。

乾燥炉(雰囲気温度制御):庫内の上下中央3点にPt100 A級・3線式を配置。庫内攪拌ファンの吐出側にメインセンサー、排出口に異常監視用センサー、ワーク近接位置に品質保証用センサー。Pt100の精度が乾燥品質の歩留まりを直接決める。

恒温槽(高精度温度制御):制御用にPt100 A級・4線式(白金抵抗の精度限界まで使う)、参照用に別個Pt100 A級。槽内温度分布を確認するためにマップ測定(9〜25点)を初回試運転で実施。±0.1℃の温度均一性を狙う。

温度計関連の規格と業界標準

最後に、温度計関連の規格を整理しておく。JIS C 1604(測温抵抗体)、JIS C 1602(熱電対)、IEC 60751(白金抵抗温度計の国際規格)、ISO/IEC 17025(試験所校正の国際規格)、ASTM E230(熱電対のアメリカ規格)。装置の海外仕様書を読むときはIECとASTMの番号を覚えておく。

業界別では、医薬品製造(GMP)はPt100 A級+校正記録必須、食品(HACCP)はSUS316シース+FDA準拠材料、半導体(SEMI規格)はクリーンルーム対応の樹脂シース+無発塵設計、と要求事項が異なる。装置設計時に納入先業界の規格を確認しておくと、後から仕様変更で痛い目を見なくて済む。

設計×現場ラボ|sekkei-tech.com

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