はじめに
機械設計者として20年、外部設計事務所の立場で大手メーカーに常駐し、産業機械の設計をしてきた。
シール設計は機械の信頼性を左右する重要な工程だが、若い頃は「Oリングはとりあえずニトリル」「シール材はとりあえずシリコン」程度の知識しかなかった。
ある食品機械のSUSハウジングで、Oリング材質をNBRで指示してしまい、洗浄薬品(次亜塩素酸)で1か月で劣化、漏れトラブルになった。
対象薬品を確認せず標準材質を選んだ判断ミス。あれ以降、シール材の選定はデータシート確認が必須プロセスになった。
この記事では、パッキン・ガスケット・コーキングという3つのシール手段を整理し、現場での選定実務を解説する。
シール設計の基本——3つの分類
機械設計でいうシールは大きく3つに分かれる。
1. パッキン:動的シール(軸シール、ピストンシール)
2. ガスケット:静的シール(固定面間のシール)
3. コーキング:充填シール(隙間に詰める液状シール)
それぞれ役割と材料が異なるので、用途を取り違えると即トラブルになる。
パッキン——動的シールの主役
種類
| 種類 | 構造 | 用途 |
|---|---|---|
| Oリング | 円形断面ゴム | 軸・固定面の往復・回転 |
| UパッキンUSI | 樹脂・ゴムU字断面 | 油圧シリンダピストン |
| Vパッキン | 山形断面複数 | 高圧油圧 |
| オイルシール | ゴム+金属リム | 回転軸(モータ、減速機) |
| メカニカルシール | 金属+セラミック | ポンプ高速回転軸 |
Oリング材質選定
| 材質 | 略号 | 耐熱 | 主な薬品適性 | 用途 |
|---|---|---|---|---|
| ニトリルゴム | NBR | -30〜100℃ | 鉱物油○、燃料○ | 油圧、一般機械 |
| 水素添加NBR | HNBR | -40〜150℃ | 高温油○ | 自動車、エアコン |
| フッ素ゴム | FKM | -20〜200℃ | 高温・薬品○ | 化学、半導体 |
| シリコンゴム | VMQ | -60〜200℃ | 食品○ | 食品、医療 |
| EPDM | EPDM | -50〜150℃ | 水蒸気○、酸○ | 蒸気、ブレーキ液 |
| パーフロロ | FFKM | -10〜260℃ | ほぼ全薬品○ | 半導体(カルレッツ) |
NBRが最も安価で汎用、迷ったらNBRが基本。
ただし食品・薬品環境はNBR不可。
私の現場での使い方
油圧シリンダー:NBRかHNBR
水周り:EPDM
食品機械:シリコン(食品グレード)または白色NBR
半導体エッチング装置:FKMまたはFFKM(カルレッツ)
メーカーと製品
- 日本バルカー:Oリング、メカニカルシール
- NOK:オイルシール国内最大手
- アライド・テクノロジー、桜シール:油圧用パッキン
- 三菱電線工業:半導体グレードFFKM
- デュポン:カルレッツ(FFKM国際ブランド)
NOKのオイルシール(TC、TCV、TB型)は国内のほぼすべての減速機・モータに採用されている定番。
ガスケット——固定面のシール
種類
| 種類 | 材料 | 用途 |
|---|---|---|
| ノンアスベスト・ジョイントシート | アラミド繊維+NBR | 配管フランジ、一般 |
| メタルジャケットガスケット | 金属外装+内部充填 | 高温高圧 |
| スパイラルワウンドガスケット | 金属帯+充填材巻き | 高圧高温配管 |
| Oリングフランジ | Oリング+溝 | 真空、油圧 |
| 紙パッキン | セルロース | 低圧水系 |
| シリコンシートパッキン | シリコンゴム | 食品、低圧 |
バルカー社の代表製品
| 製品名 | 種類 | 適用温度 | 用途 |
|---|---|---|---|
| バルカーロン #6500 | ノンアスJS | -40〜200℃ | 配管フランジ |
| バルカートップシート | ノンアスJS | -40〜250℃ | 一般工業 |
| バルカーシリーズ #6502 | 高密度ノンアス | 〜300℃ | 高温化学 |
| ULカット | ePTFE | -240〜260℃ | 薬品、半導体 |
日本バルカー、ニチアス、青木製作所が国内大手。
圧力・温度別の選定
| 圧力 | 温度 | 推奨ガスケット |
|---|---|---|
| ~1MPa | ~150℃ | ノンアス・JS、ゴム |
| 1~3MPa | ~250℃ | 高密度ノンアス |
| 3~10MPa | ~400℃ | メタルジャケット |
| 10MPa~ | ~500℃ | スパイラルワウンド |
私の現場での使い方
配管設計のフランジは、JIS規格圧力(10K, 16K, 20K)と流体・温度でカタログから選定。
「とりあえずノンアスJS」は一般工業では9割正解だが、薬品・高温・真空では個別判断必須。
ある化学プラント案件で、80℃の硫酸ライン(5%)にノンアスJS(#6500)を指示し、3か月で侵食された。
バルカー社に相談、PTFEシート(ULカット)に変更で解決。
薬品ラインは材料屋に相談するのが最短ルート。
コーキング——液状シールの世界
種類
| 種類 | 硬化方式 | 用途 |
|---|---|---|
| シリコンコーキング | 1液湿気硬化 | 建築・水回り |
| ウレタンコーキング | 1液湿気硬化 | 建築・外装 |
| 変成シリコン | 1液湿気硬化 | 万能、塗装下地可 |
| アクリル | 水性 | 屋内、安価 |
| 液状ガスケット(FIPG) | 嫌気・湿気 | 機械合わせ面 |
機械設計で使う液状ガスケット
合わせ面(カバー、ハウジング、油受け)のシールに液状ガスケットを使うことが多い。
代表製品:
- スリーボンド TB1207, TB1217(シリコン系)
- スリーボンド TB1110, TB1141(嫌気性)
- ロックタイト 515, 518(嫌気性フランジシール)
- セメダイン 8051N
私の現場では、減速機ハウジングの合わせ面にスリーボンドTB1217が定番。
オイル耐性、振動耐性、再分解しやすさのバランスがいい。
注意点
- **塗布厚は0.1〜0.3mm**、厚すぎるとはみ出し
- **嫌気性は空気遮断で硬化**、隙間がないと硬化しない
- **シリコン系は塗装下地不可**
シール設計の判断軸
20年やってきた経験から、判断軸を整理する。
軸①:動的か静的か
- 動的(軸が動く) → Oリング、オイルシール、メカニカルシール
- 静的(固定) → ガスケット、コーキング、Oリング(フランジ)
軸②:流体と温度
- 油:NBR、HNBR、FKM
- 水:EPDM、シリコン、NBR
- 食品:シリコン(食品グレード)、白色NBR
- 薬品:FKM、FFKM、PTFE
- 蒸気:EPDM、メタル
軸③:圧力レベル
- 低圧(<1MPa):ゴム、紙パッキン
- 中圧(1〜10MPa):ノンアス、スパイラル
- 高圧(>10MPa):メタルジャケット、メタルOリング
軸④:再分解の有無
- 分解再使用したい → ガスケット(硬化型は不可)
- 1回限り → 液状ガスケット可
私が現場で痛い目を見た例
ケース1:薬品適性確認不足
冒頭の食品機械の件。NBRで次亜塩素酸シールしてしまい1か月で劣化。
薬品環境ではEPDMかFKM、必ずデータシートで耐薬品性を確認。
ケース2:Oリング溝寸法ミス
新規Oリング選定で溝寸法を計算ミス。圧縮率15%(適正25〜30%)でシール不足、漏れ。
Oリング溝寸法はメーカーカタログ通り、独自設計しない。
ケース3:ガスケット締付トルク管理なし
フランジ締付を作業者任せにし、片締めでガスケット偏荷重→漏れ。
重要フランジは締付順序と規定トルクを図面注記。
ケース4:液状ガスケットの過剰塗布
液状ガスケットを大量に塗布、はみ出した液が油路に流れ込み、フィルタ目詰まり。
塗布厚は0.1〜0.3mm、ビーズ状に細く均一に。
メーカーとの付き合い方
シール材料は専門メーカーが豊富で、技術サポートが充実している。
- **日本バルカー**:ガスケット、Oリング、メカニカルシール
- **NOK**:オイルシール、Oリング
- **ニチアス**:ガスケット、断熱
- **スリーボンド**:液状ガスケット、嫌気性
- **三菱電線工業**:半導体グレードシール
- **マスナガ・トラスコ中山**:流通
仕様で迷ったら問い合わせ、無料サンプルや実機評価を相談すると良い。
特にバルカー、NOKの技術営業は知識豊富で、設計初期から相談する価値がある。
設計図面への指示の書き方
シール部品の図面指示は曖昧にしない。
最低限以下を明記する。
Oリングの場合
> Oリング:NOK製、AS568-117(ID φ20.29×T1.78)、NBR、Sh90
> 溝寸法:JIS B 2406準拠
ガスケットの場合
> ガスケット:日本バルカー製 バルカーロン #6500
> 厚さ:1.5mm、JIS 10K フランジ用
> 締付トルク:M16ボルト 60N・m、対角順序2回締め
液状ガスケットの場合
> 液状ガスケット:スリーボンドTB1217
> 塗布厚:0.2mm、ビーズ状塗布
> 接合面:脱脂後組立
おわりに
シール設計は機械の信頼性を直接決める。
「漏れる機械は売れない」これは20年やってきて痛感した真理。
若い設計者には、ぜひシール材料の物性データシートを読み込むことを勧めたい。
教科書を読むより、バルカーやNOKのカタログを通読するほうが10倍実用的だ。
材料・流体・温度・圧力の組み合わせ表を眺めるだけで、選定判断が一気に研ぎ澄まされる。
機械は「動く部品」と「シールする部品」の組み合わせ。
両方を制する設計者が、本物の機械設計者だと私は思っている。
設計×現場ラボ|sekkei-tech.com
📚 このジャンルのまとめ: 【まとめ】機械要素部品ガイド——ねじ・軸受・歯車・シールを実務で選ぶための記事一覧



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