VE(バリューエンジニアリング)とVA(バリューアナリシス)という言葉を聞くと、多くの設計者は「コストダウン=品質を削ること」だと身構える。私も現場に出たばかりの頃はそうだった。客先の購買部門から「この部品、あと2割安くならないか」と言われるたびに、図面の材質欄をにらんで「これ以上削ったら強度計算が通らない」と思っていた。
だが20年近くいろいろな現場を渡り歩いて分かったのは、VE/VAの本質はコストを削ることではなく、「機能あたりのコスト」を最適化することだという当たり前の話だった。同じ機能をより安く実現できるなら、それは品質を落とさずにコストを下げる正攻法になる。この記事では、客先常駐で購買・生産技術・調達の板挟みになりながら実際にコスト削減提案を通してきた経験をもとに、設計者がVE/VAをどう実務に落とし込むかを具体的に書いていく。
机上の理論よりも、提案書がどう却下され、どう通ったかという泥臭い話のほうが役に立つはずだ。
VEとVAの違いを現場感覚で理解する
教科書的にはVEは「開発・設計段階での価値向上活動」、VAは「量産後の改善活動」と分けられることが多い。だが現場でこの区別を厳密に意識している人はあまりいない。私が常駐先で使い分けているのはもっとシンプルな基準だ。
図面がまだ確定していない段階、つまり量産治具も金型も発注していない段階でのコスト検討はVE的な動き方になる。この段階なら材質変更・構造変更・公差の見直しなど、比較的大きな変更でもリスクは小さい。一方で量産が始まって半年、1年と経った後に「もっと安くならないか」と言われるのはVAの領域で、ここでは金型改修費や検証コストが必ず絡んでくる。
ある油圧機器メーカーの案件では、量産開始から8ヶ月後にVA提案を求められたことがある。バルブボディの機械加工工数を削減する提案だったが、金型はすでに量産用のものが完成していたため、形状変更は最小限に抑えざるを得なかった。結果として提案できたのは加工順序の見直しと治具のクランプ方法変更程度で、削減効果は加工費の6%にとどまった。もしこれが設計段階のVE活動として行われていれば、鋳造抜き勾配の見直しだけで加工工数を15%以上削減できた可能性が高い。この経験から、私は常駐先で「VE活動は量産図面確定の最低3ヶ月前に始めるべき」と主張するようになった。
また、VE活動を始めるタイミングだけでなく、進め方そのものにも型がある。私が使っているのは、情報収集・機能定義・アイデア創出・評価・具体化・提案という6段階のジョブプランだ。特に効果を感じているのは「アイデア創出」の段階で、いきなり実現可能性を評価せずに、突飛なアイデアも含めてとにかく数を出し切ることだ。ある搬送装置の案件では、ブレインストーミングの段階で出た30件のアイデアのうち、最終的に実現可能と判断されたのはわずか4件だったが、その4件のうち2件は「実現不可能」だと思われていたアイデアを別の角度から修正して生まれたものだった。評価を急ぐと、こうした化ける可能性のあるアイデアを早い段階で潰してしまう。アイデア創出と評価を明確に分けて、時間を区切って実施することを常駐先でも徹底するようにしている。
コスト削減提案の起点は機能分解にある
提案書を作る前にまずやるべきは、対象部品や機構の機能を分解することだ。ここを飛ばしていきなり「安い材質に変える」「板厚を薄くする」という提案を出すと、たいてい強度不足や信頼性低下を理由に却下される。
私が実務でよく使うのは、対象部品が持つ機能を「必須機能」「付随機能」「不要になった機能」の3つに仕分ける方法だ。搬送設備の可動フレームを例にすると、必須機能は「積載物を支持する」「振動を許容範囲内に収める」の2つ、付随機能は「メンテナンス時の分解容易性」、不要になった機能は「初期設計時に想定していた将来拡張用の取り付け穴」といった具合になる。
ある搬送ラインの改善案件では、フレームに開けられていた予備穴が実際には一度も使われていないことが判明した。設計変更履歴を調べると、5年前の初期設計時に「将来のオプション増設用」として設けられた穴だったが、そのオプション自体がすでに廃止されていた。この予備穴を削除し、板厚も1mm薄くする提案を出したところ、強度計算(FEM解析)で安全率が十分に確保できることを示せたため採用された。板厚変更だけで材料費が1台あたり約1,200円、月産300台換算で年間432万円のコスト削減になった。この件のポイントは、機能分解によって「誰も使っていない機能のためにコストを払い続けていた」ことを可視化できた点にある。
機能分解をさらに一歩進める方法として、私はFAST図(Function Analysis System Technique)を簡易的に使うこともある。「なぜその機能が必要か」を上位方向に、「どうやってその機能を実現しているか」を下位方向にたどっていくことで、機能同士のつながりを図式化する手法だ。ある油圧ユニットの筐体設計を見直した際、FAST図を描いてみると「筐体を密閉する」という機能が、実は「内部部品を粉塵から保護する」というさらに上位の機能を実現するための手段の一つに過ぎないことが分かった。密閉構造をやめてラビリンス構造(迷路状の隙間で粉塵の侵入を防ぐ構造)に変更しても上位機能は十分満たせると判断でき、パッキン部品と組み立て工数をまるごと削減できた。機能を単なるリストではなく階層構造として捉えると、思いもよらない代替手段が見えてくることがある。
コスト削減提案書に必ず入れるべき5つの要素
提案書のフォーマットは現場ごとに違うが、通す確率が高い提案書には共通する要素がある。私が経験上たどり着いた構成は次の5つだ。
1つ目は現状のコスト内訳。材料費・加工費・組立工数・検査工数を分けて示す。ここが曖昧だと購買側も生産技術側も判断できない。2つ目は変更内容の具体的な図面比較(現行案と変更案を並べる)。3つ目は変更によるコストインパクトの試算根拠。単に「〇〇円下がります」ではなく、材料単価×使用量、加工時間×工数単価といった計算式を明示する。4つ目はリスクと検証計画。強度・耐久性・組立性への影響と、それをどう確認するかを書く。5つ目が量産移行スケジュールとの整合性だ。
このうち現場で一番軽視されがちなのが5つ目のスケジュール整合性だ。技術的に優れた提案でも、金型改修や部品切り替えのタイミングが量産計画とずれていると却下される。ある案件では、コネクタ部品を集約して部品点数を3点から1点に削減する提案が技術的には満場一致で評価されたにもかかわらず、切り替えタイミングが年末の生産繁忙期と重なったため、翌四半期まで採用が見送られた。技術内容が正しくても、通すタイミングを外せば意味がないという教訓だった。
この5つの要素のうち、意外と提案者が手を抜きがちなのが2つ目の図面比較だ。文章だけで変更内容を説明する提案書を何度も見てきたが、購買・生産技術どちらの担当者も図面を見て初めて変更の実態を理解する人がほとんどだ。私は必ず現行案と変更案を同一縮尺・同一アングルで並べたポンチ絵を添付するようにしている。手書きのスケッチでも構わないので、視覚的に一目で違いが分かる資料を用意するだけで、会議での質疑応答の時間が大幅に短縮される実感がある。また、3つ目の試算根拠についても、単月の削減額だけでなく年間換算額、さらに主要機種への横展開を想定した場合の全社インパクト額まで併記するようにしている。経営層向けの決裁では、この全社インパクト額の大小が承認スピードを左右することが多いというのが実感だ。
もう一つ、提案書の質を左右するのが「代替案の併記」だ。1つの変更案だけを提示すると、承認する側は「イエスかノーか」の二択で判断せざるを得ず、少しでも懸念があれば無難にノーを選ばれてしまう。私は最低でも2つ、できれば3つの代替案(削減効果は小さいが確実性の高い案、削減効果は大きいがリスクもある案、その中間案)を並べて提示するようにしている。判断する側に選択肢を与えることで、「この案は無理でも、この案なら通せる」という前向きな検討が生まれやすくなる。実際、最も削減効果の大きい案がそのまま通ることは少なく、中間案が採用されるケースが体感で最も多い。
「安くする」ではなく「機能単価を下げる」という発想転換
VE/VAで最も陥りやすい失敗は、コスト削減額だけに目を奪われて機能を犠牲にしてしまうことだ。私が過去に見た失敗例では、板金カバーの板厚を1.6mmから1.2mmに変更する提案が「材料費削減」という理由だけで一度承認されたが、量産後に現場作業者からの踏みつけによる変形クレームが多発し、結局は元の板厚に戻した上に、追加の補強リブ設計費用まで発生して、トータルではコストが増える結果になった。
この失敗から学んだのは、コスト削減の検討では必ず「その部品が実際にどう使われているか」という現場情報を確認するということだ。図面上の設計条件だけでなく、実際の設置環境・操作頻度・作業者の動線を確認しないと、机上の計算では見えないリスクを見落とす。
以下は、私が提案の妥当性を確認する際によく使うチェック観点を整理したものだ。
| 確認項目 | 具体的な確認方法 |
|---|---|
| 想定荷重の妥当性 | 実機での荷重測定データ、またはカタログスペック値との照合 |
| 使用環境 | 現場の温度・湿度・粉塵・振動の実測または現場ヒアリング |
| 作業者の使い方 | 実際の作業手順動画やライン観察 |
| メンテナンス頻度 | 保全記録から交換・点検周期を確認 |
| 過去のクレーム履歴 | 同系統部品の不具合報告書を確認 |
この表にある項目を確認せずに提案を出すと、机上では正しくても現場では通用しない設計になる可能性が高い。VE/VAは机の上だけでなく、現場に足を運んでこそ精度が上がる活動だと実感している。
この板厚変更の失敗を教訓に、私は現場ヒアリングのやり方も見直した。以前は設計担当者や生産技術担当者への聞き取りだけで済ませていたが、それでは実際に部品を使う現場作業者の生の声が抜け落ちる。今では可能な限り、現場作業者に直接「この部品をどう扱っているか」を聞くようにしている。あるコンベア装置の部品変更を検討した際、現場作業者から「この部分は台車が接触することがよくある」という、図面上には一切記載のない情報を得られたことがあった。設計者や生産技術担当者はその接触を「イレギュラーな使い方」として認識しておらず、もし現場の声を聞かずに軽量化を進めていたら、また同じ失敗を繰り返していたところだった。机上のデータだけでなく、現場の生の声を拾いに行く手間を惜しまないことが、VE/VAの精度を上げる一番の近道だと考えている。
購買部門・生産技術部門との協業の作法
VE/VA活動は設計者だけで完結しない。購買部門は材料価格や調達先の動向に詳しく、生産技術部門は加工方法や設備の制約に詳しい。設計者がこの2部門と協業せずに単独で提案を作ると、実現不可能な提案になりがちだ。
私が意識しているのは、提案の初期段階で必ず生産技術部門に相談を持ちかけることだ。「この形状変更をしたら加工工数はどう変わるか」を設計段階で聞いておくと、後から「その加工方法だと逆に工数が増える」と指摘されて手戻りになることを防げる。ある部品で溶接構造からプレス一体成形への変更を検討した際、設計段階での試算では材料費・加工費とも削減できる見込みだったが、生産技術部門に確認したところ、既存のプレス設備では成形できる板厚に上限があり、追加設備投資が必要になることが判明した。設備投資額を織り込むと投資回収に3年以上かかると分かり、この提案は見送りになった。もし生産技術部門への確認を後回しにしていたら、提案書を作り込んだ後に無駄になっていたところだった。
購買部門との連携では、材料の市況価格変動情報が重要になる。ある案件でアルミから樹脂への材質変更を提案した際、樹脂原料の国際価格が半年前から上昇傾向にあるという情報を購買部門から得られたおかげで、「今は安く見えても半年後には逆転する可能性がある」というリスクを提案書に織り込むことができた。設計者だけでは把握しづらい市況情報を早い段階で共有してもらえる関係を普段から作っておくことが、精度の高い提案につながる。
生産技術・購買部門との協業をさらに円滑にするために、私が常駐先で提案して定着させたのが月1回の「VE/VA定例会」だ。設計・生産技術・購買の担当者が持ち回りで集まり、進行中の提案の状況共有と、新しいアイデアの一次スクリーニングを行う場を設けた。この定例会を始める前は、部門をまたぐ相談が個別のメールや立ち話ベースで行われていたため、話が担当者個人の頭の中に留まって共有されず、同じような提案が別の担当者から重複して出てくることもあった。定例化してからは、進行中の案件が可視化されることで重複が減り、また部門を横断した知見(過去に却下された理由など)が蓄積されるようになった。協業の仕組みは属人的な関係性に頼るのではなく、定例の場として制度化しておくことで継続性が生まれると実感している。
却下された提案から学ぶ——失敗パターンの類型化
これまで数十件のVE/VA提案に関わってきたが、通らなかった提案には共通するパターンがある。ここでは実際に経験した却下理由を類型化して紹介する。
1つ目は「検証コストが削減効果を上回る」パターン。小さな削減額のために大規模な強度試験や耐久試験が必要になるケースで、費用対効果が合わない。2つ目は「サプライチェーンの制約」パターン。安価な材料や部品が見つかっても、調達先が海外1社のみで供給リスクが高い場合、購買部門から却下される。3つ目は「標準化の崩れ」パターン。個別部品では安くなっても、他機種との共通部品化(標準化)が崩れることで、全体の在庫管理コストや金型管理コストが増える場合がある。4つ目は「変更のタイミング不一致」で、これは前述の通り量産計画とのズレだ。
このうち私が特に意識するようになったのは3つ目の標準化崩れだ。設計者は担当機種の中でのコスト最適化に意識が向きがちだが、会社全体で見れば部品を共通化して型番を減らすことのほうがトータルコストに効く場合が多い。ある案件で、担当機種専用のブラケットを新規設計してコストを8%下げる提案を出したが、既存の共通ブラケットとの差異が小さいことを購買部門から指摘され、結局は共通品を使い続ける判断になった。個別最適が全体最適とは限らないという、当たり前だが忘れがちな教訓だった。
さらに私が最近意識するようになったのは、これら4つのパターンに加えて「タイミングを分けて再提案する」という戦略だ。一度却下された提案でも、却下理由が解消されれば再チャレンジする価値は十分にある。標準化崩れを理由に却下された前述のブラケットの案件も、その後に会社全体で製品ラインナップの見直しが行われ、共通ブラケット自体が改廃対象になったタイミングで、以前の専用設計案を再提案したところ、今度はすんなり採用された。却下された提案を「失敗」として記憶の引き出しにしまい込むのではなく、却下理由とセットでストックしておき、状況が変わったタイミングで再提示できるようにしておくことも、VE/VA提案者としての重要な習慣だと考えている。
5つ目は「現場の心理的抵抗」パターンだ。技術的にもコスト的にも問題がないにもかかわらず、長年その部品や工法に慣れ親しんだ現場の作業者や職人から「今のままでいい」という抵抗を受けて見送りになるケースがある。ある案件で、手作業による研磨工程を自動化する提案を出した際、技術的な検証はクリアしていたにもかかわらず、ベテラン作業者から「機械では自分たちの仕上がりの勘所は再現できない」という強い反対があり、導入が長期間見送られたことがあった。この経験から学んだのは、提案を通すには技術的な妥当性だけでなく、現場の納得感を得るプロセスも同じくらい重要だということだ。以降、私は大きな工法変更を伴う提案の場合、正式な提案書を出す前に現場のキーパーソンに個別に説明し、懸念点を聞き取ってから提案内容に反映するという手順を踏むようにしている。技術と現場感情の両方に目を配ることが、VE/VA提案を最終的に実現まで持っていくために欠かせない視点だと考えている。
VE/VAを継続的な仕組みにするために
単発の提案で終わらせず、VE/VA活動を継続的な仕組みにするために、私が常駐先で提案してきたのは「コスト削減アイデアのストック化」だ。日々の設計業務の中で「これは高いな」「もっと簡単にできないか」と感じた瞬間をメモしておき、月次のレビュー会議でまとめて検討する運用にすると、思いつきレベルのアイデアが埋もれずに蓄積されていく。
ある現場ではExcelで簡易的な「気づきシート」を作り、設計者・製造・購買の誰もが思いついた時点で1行記入できるようにした。半年間で40件以上のアイデアが集まり、そのうち実際にコスト削減につながったのは6件だったが、率にすれば15%は決して低くない。重要なのは、思いついたアイデアを個人の頭の中に留めずに共有できる仕組みを作ることだ。
アイデアのストック化と合わせて効果を感じているのが、提案が実際に採用された際の還元の仕組みだ。ある常駐先では、採用されたコスト削減提案の削減額の一部を、提案者が所属するチームの改善活動予算として還元する仕組みを作っていた。金額としては大きくなくても、「自分たちが出したアイデアが自分たちの現場に還元される」という実感があると、次のアイデアを出すモチベーションにつながる。逆に、提案しても評価も還元もされない状態が続くと、どれだけ気づきシートを整備しても徐々に投稿が減っていくのを何度も見てきた。VE/VAを一過性の活動で終わらせず、組織の文化として根付かせるためには、こうした小さなインセンティブ設計も軽視できないポイントだと感じている。
VE/VAは一発大きな成果を狙う活動ではなく、日々の小さな気づきを積み重ねる地道な活動だと私は考えている。設計者としての本分は機能と品質を守ることだが、その機能を最も効率よく実現する方法を常に探し続ける姿勢もまた、設計者に求められる重要な資質だと感じている。
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