はじめに
機械設計者として20年、外部設計事務所の立場で大手メーカーに常駐し、産業機械の架台・基礎周りを多く設計してきた。
回転機械、プレス機、コンプレッサのような振動を発生する機械の据付では、振動絶縁設計が必須だ。
若手の頃、ある汎用コンプレッサの据付架台で防振ゴムを「適当な硬度」で選び、運転後に共振して床が震えた経験がある。
原因は固有振動数の計算をせず、ゴムメーカーの推奨品を鵜呑みにしたこと。
あれ以来、振動絶縁はまず固有振動数の計算から入るのが鉄則になった。
この記事では、防振ゴム・エアダンパー・固有振動数を軸に、振動絶縁設計の実務を整理する。
振動絶縁の基本——なぜ振動を絶縁するか
振動絶縁には2つの目的がある。
1. アクティブ絶縁:振動源から床への伝達を防ぐ(コンプレッサ、プレス機の支持)
2. パッシブ絶縁:床からの振動を機器に伝えない(精密機械、半導体装置の支持)
どちらも原理は同じで、ばね+ダンパーの系を構築し、振動源周波数を固有振動数より十分高くすることで伝達率を下げる。
振動絶縁の理論——伝達率と固有振動数
1自由度系の振動伝達率
簡単な1自由度系(ばね-質量-ダンパー)の伝達率T(振動源→床)は以下で表せる。
$$T = \sqrt{\frac{1+(2\zeta\eta)^2}{(1-\eta^2)^2+(2\zeta\eta)^2}}$$
- η = ω/ωn(強制振動数比、ω:強制周波数、ωn:固有角振動数)
- ζ:減衰比
実用上覚えるべき結論:
- **η > √2** で初めて伝達率T<1(絶縁効果あり)
- η = 1(共振)でTは最大、絶対NG
- η > 3〜5で十分な絶縁(T<0.1)が得られる
固有振動数の計算
$$f_n = \frac{1}{2\pi}\sqrt{\frac{k}{m}}$$
- fn:固有振動数 [Hz]
- k:ばね定数 [N/m]
- m:質量 [kg]
実務でよく使う近似式:
$$f_n[Hz] \approx \frac{15.8}{\sqrt{\delta_{st}[mm]}}$$
- δst:静的たわみ量
つまり、たわみを大きく取れば固有振動数は下がる。
たわみ10mmで5Hz、25mmで3.2Hz、100mmで1.6Hz。
防振ゴム——最も汎用的な振動絶縁要素
種類
| 種類 | 形状 | 特徴 | 用途 |
|---|---|---|---|
| 防振パッド | 平板 | 床敷き、簡易 | 工作機械、洗濯機 |
| 防振マウント | ベル型・円筒 | 中容量、汎用 | コンプレッサ、ファン |
| ロックワッシャ | リング | ボルト緩み防止+防振 | ねじ部 |
| 防振金具 | 取付ブラケット内蔵 | 据付容易 | 産業機械 |
| 円筒型ゴムマウント | スパイダ型 | 高耐荷重 | 重量機械 |
ゴム硬度と特性
| ショア硬度 | 特性 | 用途 |
|---|---|---|
| Sh30〜40 | 柔らかい、たわみ大、共振低 | 軽量精密機 |
| Sh50〜60 | 中間、汎用 | 一般機械 |
| Sh70〜80 | 硬い、たわみ小、耐荷重大 | 重量機械 |
メーカーと製品
国内大手:
- **倉敷化工(クラレ)**:防振ゴム・マウント国内シェアトップ
- **オイレス工業**:防振ゴム、すべり支承
- **昭和電線**:振動絶縁支承
- **東洋ゴム工業**:自動車用ゴムマウント
- **日進工業**:機械防振具
私の現場での使い方
汎用コンプレッサ(22kW、質量400kg)の防振設計例:
- 振動数:50Hz(電動機×極数で計算)
- 目標伝達率:T<0.1
- 必要固有振動数:η>5 → fn<10Hz
- 必要たわみ:δst > (15.8/10)² = 2.5mm
- ゴム選定:倉敷化工 KAB-100、Sh60、4個配置、各100kg負荷
- 静たわみ実測:約3.5mm、fn≒8.5Hz、伝達率0.04 → OK
これで床への振動伝達率が96%カット。
注意点
- **ゴムは経年劣化**で硬化、5〜10年で交換が必要
- **油や薬品環境ではEPDM・FKMゴム**を選ぶ
- **耐熱は基本-30〜+80℃**、超える場合は特殊ゴム
エアダンパー(空気ばね)——精密機械の必需品
特徴
空気ばねは圧縮空気を利用した低剛性ばね。
極めて低い固有振動数(1〜3Hz)を実現できる。
半導体露光装置、電子顕微鏡、精密測定機の振動絶縁に不可欠。
原理
ベローズ内に圧縮空気を封入、負荷で空気が圧縮され反発力+減衰効果を生む。
レベリングバルブで荷重変化に追従して内圧調整、常に水平を保つ。
種類
- ベローズ型:高さ可変、ロボット・装置の精密支持
- ダイアフラム型:扁平、半導体ステージ
- アクティブ除振台:センサ+電磁アクチュエータで能動制御
メーカー
- **倉敷化工**:除振台、エアスプリング国内シェア大
- **昭和サイエンス**:除振台、精密機器支持
- **特許機器**:除振台、超精密用途
- **Newport(米)**:光学定盤、海外でシェア大
- **TMC(米)**:半導体ステージ用
私の現場での使い方
半導体製造装置(質量2,000kg)のステージ周りで、目標固有振動数2Hzの除振設計:
- 倉敷化工 KAB-A型エアマウント、4個配置
- 各内圧0.3MPa、レベリングバルブ自動調整
- 計算固有振動数1.8Hz、外乱10Hzに対し伝達率0.04
- 床振動加速度0.5gal(≒5mm/s²)を0.02galまで低減
これで装置の重ね合わせ精度(オーバーレイ)が安定。
注意点
- **エア源必要**:コンプレッサ+エア配管が必要
- **コスト高**:防振ゴムの10倍以上
- **メンテナンス**:年1回のエア漏れ点検、レベリングバルブ調整
ダンパー——減衰要素の追加
ばねだけだと共振時に振動が無限大になるため、減衰要素(ダンパー)を追加する。
種類
| 種類 | 原理 | 特徴 |
|---|---|---|
| 摩擦ダンパー | 摩擦 | 安価、減衰大、温度変化大 |
| オイルダンパー | 粘性 | 自動車サスペンション、安定 |
| 粘性ダンパー | シリコンオイル | 精密装置 |
| 電磁ダンパー | 渦電流 | 非接触、精密 |
| MR流体ダンパー | 磁気粘性流体 | アクティブ制御可 |
防振ゴム自体に減衰特性(ヒステリシスロス)があるので、通常はダンパー併用しない。
高精度・低振動が必要な場合のみ追加検討。
振動絶縁設計の手順
私が実務で踏んでいる手順を整理する。
ステップ1:振動源の特定
- 振動源の周波数を特定(モータ回転数、プレス打数、ファン羽根数等)
- 振動の方向(上下、水平、回転)
- 振動の大きさ(振幅、加速度)
例:50Hz, 4極モータ → 1500rpm → 25Hz基本周波数
ステップ2:目標伝達率の設定
機械設置場所の許容振動レベルから逆算。
- 工場一般:T=0.1〜0.3
- オフィス内:T<0.05
- 病院・精密機械:T<0.01
ステップ3:必要固有振動数の計算
T=0.1なら η > 3〜4、つまり fn < f_excitation/4
ステップ4:防振要素の選定
固有振動数fnと質量mから必要ばね定数kを計算、メーカーカタログから製品選定。
ステップ5:配置設計
- 機械重心と防振要素の中心を一致させる
- 4点支持の場合、対称配置
- 偏荷重時はロッキング振動に注意
ステップ6:実機確認
据付後、加速度センサで実測し、伝達率を確認。
予想と外れたら、ゴム硬度・個数・配置を調整。
私が現場で痛い目を見た例
ケース1:固有振動数計算なしの選定
冒頭のコンプレッサの件。
ゴムメーカーから「このくらい」と提案された防振ゴムを使い、運転で共振。
原因:固有振動数20Hz、振動源22Hz、ηが約1で完全共振。
必ず固有振動数の計算を先にやる。
ケース2:偏荷重で片足浮き
天井クレーン受け架台で、防振ゴム4点支持。荷重移動で1点が浮き、ロッキング振動発生。
偏荷重時の最小荷重を確認、ゴムが浮かないようプリロード設計が必要。
ケース3:ゴム硬度間違い
軽量精密機(200kg)にSh80(硬い)防振ゴムを選び、ほとんどたわまず効果なし。
質量に応じてゴム硬度を選ぶ、軽量機にはSh40〜50が適切。
ケース4:エアダンパーのエア漏れ
エア除振台のエア配管継手が緩み、夜間にエアが抜けて装置が傾斜、半導体ウエハ破損。
エア配管は溶接かフレア接続、フェルール接続を避ける。
振動絶縁の判断軸
判断軸①:目標伝達率で技術選定
| 目標伝達率 | 推奨技術 |
|---|---|
| T=0.3 | 防振パッド、簡易マウント |
| T=0.1 | 防振ゴムマウント(汎用) |
| T=0.03 | 防振ゴムマウント(高性能) |
| T=0.01以下 | エアダンパー、アクティブ除振台 |
判断軸②:機械質量と振動源周波数
| 振動源周波数 | 機械質量 | 推奨 |
|---|---|---|
| 100Hz以上 | 軽〜重 | 防振ゴム可 |
| 20〜100Hz | 軽〜重 | 防振ゴム(要計算) |
| 5〜20Hz | 重 | 防振ゴム(軟質)or エア |
| 5Hz以下 | 重 | エアダンパー必須 |
判断軸③:環境
- 油・薬品環境 → 耐油ゴム(NBR、FKM)または金属ばね
- 高温環境 → 金属ばね、シリコンゴム
- クリーン環境(クラス10〜100) → エアダンパー、特殊ゴム
おわりに
振動絶縁は理論と実務の両方が問われる分野だ。
固有振動数の計算をサボると必ず共振トラブルになるし、計算だけして実機確認しないと予想外の挙動に泡を食う。
20年やってきて感じるのは、振動の世界はメーカー技術者との対話が一番の学びになるということ。
倉敷化工、オイレス工業、昭和サイエンスなどの技術営業は知見が豊富で、設計初期から相談すれば最適解を導いてくれる。
特に半導体・精密機械の振動絶縁は、メーカーとタッグを組まないと机上では到底解けない。
振動測定機(ブリュエル&ケアー、ONO SOKKI)を一台手元に置いておくと、設計のリアルさが一段上がる。
機械は止めるだけでなく、震えさせない設計があって初めて完成する。
振動絶縁設計を学ぶことは、機械設計者として一段深い世界に入る扉だ。
設計×現場ラボ|sekkei-tech.com



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