はじめに
機械設計者として20年、外部設計事務所の立場で大手メーカーに常駐し、産業機械の設計をしてきた。
電気制御盤、センサー、屋外機器の設計ではIP等級の指定が必須で、ここを誤ると現場で水侵入・粉塵故障の温床になる。
若手の頃、ある食品工場の搬送装置で制御ボックスをIP54で設計したら、洗浄水ジェットでショート故障。
食品工場の高圧洗浄環境はIP65以上が必要だったが、仕様調査が浅かった。
あれ以来、IP等級は設置環境の洗浄方法まで含めて指定するようになった。
この記事では、IP等級の意味、パッキン・ガスケットの選定、防塵防滴設計の実務を整理する。
IP等級とは
IPコード(International Protection Marking)はIEC 60529(JIS C 0920)で規定された保護等級表記。
「IP65」のように2桁の数字で表す。
- 1桁目:**固体(粉塵)侵入保護**
- 2桁目:**液体(水)侵入保護**
1桁目:固体保護
| 等級 | 保護内容 |
|---|---|
| 0 | 保護なし |
| 1 | 50mm以上(手の甲) |
| 2 | 12.5mm以上(指) |
| 3 | 2.5mm以上(工具) |
| 4 | 1mm以上(針金) |
| 5 | 防塵形(侵入を完全には防げないが障害ない) |
| 6 | 耐塵形(侵入なし) |
2桁目:水保護
| 等級 | 保護内容 |
|---|---|
| 0 | 保護なし |
| 1 | 垂直水滴 |
| 2 | 15°以内傾斜での水滴 |
| 3 | 60°以内の散水 |
| 4 | 全方向の水しぶき |
| 5 | 全方向の噴流水(ジェット) |
| 6 | 強力な噴流水(高圧ジェット) |
| 7 | 一時的水没(30分、1m深) |
| 8 | 継続水没(メーカー指定条件) |
| 9K | 高温・高圧噴流水(80℃、80〜100bar) |
代表的なIP等級と用途
| IP等級 | 用途例 |
|---|---|
| IP20 | 室内一般電子機器 |
| IP44 | 屋内防滴電気盤 |
| IP54 | 一般工場制御盤 |
| IP65 | 屋外電気盤、防塵防水カメラ |
| IP66 | 食品工場・洗浄環境 |
| IP67 | 水没OK機器、車載 |
| IP68 | 完全水中機器 |
| IP69K | 高圧高温洗浄環境(食品・薬品) |
防塵設計——固体侵入をどう防ぐか
開口部の設計
1桁目を上げるには開口部を小さくするのが基本。
- 1mm以上の隙間:IP4以下
- 0.5mm以下の隙間:IP5以上
- 完全密閉+フィルター:IP6
フィルタ・ベント
完全密閉は熱がこもるので、呼吸口(ブリーザー)を設ける。
防塵フィルタ付きベント(ゴアテックス膜、PMI社など)で粉塵を遮断しつつ呼吸。
ケーブル貫通部
- 防水コネクタ(PG, M16〜M40, IP68)
- ケーブルグランド(クメリッヒ、HUMMEL社、内田鋼業)
- パッキン付きブッシング
ケーブル径とグランドの適合範囲を確認、緩いと防塵性能低下。
パッキンの圧縮量
ゴムパッキンは圧縮率25〜35%で使うのが基本。
圧縮率が低いと密閉不足、高いと永久変形でシール失効。
防滴設計——水侵入をどう防ぐか
ドアシール
| シール種類 | 適用IP |
|---|---|
| EPDMリブパッキン | IP54 |
| EPDM中空パッキン(つぶし式) | IP65 |
| シリコン中空+ラビリンス構造 | IP66 |
| Oリング+メタルtoメタル接触 | IP67〜68 |
角型ボックスのコーナー処理
ドアの角は水が溜まりやすく漏れの起点。
- 連続パッキン(角もシール材で連続)
- 4辺パッキンを「枠型」で一体化
- 角に水抜きスリット
私の現場では、IP65以上の制御盤は河村電器産業のBP/BWシリーズや日東工業のSKシリーズが標準。
内製設計より、メーカー品の方が信頼性・コストとも有利。
ケーブルグランド選定
- IP65:合成樹脂製ケーブルグランド(クメリッヒPCS、HUMMEL)
- IP68:金属製+EPDMシール(HUMMELメタルカーニッ、ラピーキング)
- IP69K:特殊メタル製+高圧シール(ラピー、サーパスケーブルグランド)
パッキン・ガスケット材質選定
環境別
| 環境 | 推奨材質 |
|---|---|
| 屋内一般 | EPDM、NBR |
| 屋外 | EPDM(耐候、耐オゾン) |
| 高温 | シリコン、FKM |
| 食品 | シリコン(食品グレード)、白色EPDM |
| 薬品 | FKM、FFKM、PTFE |
| 油 | NBR、HNBR、FKM |
形状別
- **平パッキン(シート切出し)**:低圧、IP54〜65
- **Oリング**:高圧、IP65〜68、メタル面間
- **中空チューブパッキン**:圧縮性高い、IP65〜66、ドア面
- **発泡シール(PORON, スポンジゴム)**:圧縮性極大、IP54〜65、軽量
メーカー
- **日本バルカー**:工業用全般
- **NOK**:Oリング、オイルシール
- **イノアック**:ポロン(PORON)、エプトシーラー
- **西川ゴム**:自動車・建築用シール
- **栗本鐵工所**:弁・配管シール
IP等級別の構造設計例
IP54の制御盤
- ドアパッキン:EPDMリブパッキン、平板1ターン
- ケーブルグランド:PG21(合成樹脂)
- ベント:防水ベント1個
IP65の制御盤
- ドアパッキン:EPDM中空パッキン、つぶし式、25%圧縮
- ケーブルグランド:PG21(金属)+EPDM
- ベント:ゴアテックス防水ベント、IP67
- 鋼板1.6mm、レーザー溶接で隙間ゼロ
IP66の食品工場制御盤
- 全面SUS304ヘアライン仕上げ
- ドアパッキン:シリコン中空パッキン、3面ラビリンス
- ケーブルグランド:HUMMELメタル+シリコン
- 内部:傾斜底+水抜きドレン
- 衛生設計:3Aサニタリー対応
IP67のセンサーハウジング
- アルマイト処理アルミハウジング、Oリング2重シール
- 防水コネクタ(IP68、M12防水)
- 配線:ケーブル一体型、グランド不使用
- 試験:浸水試験1m×30分実施
IP69Kの食品搬送装置
- 全面SUS316L、電解研磨
- パッキン:シリコン中空+金属抑え
- 高圧洗浄(80℃、100bar)対応の構造
- ボルト:六角穴付き、衛生キャップ
私が現場で痛い目を見た例
ケース1:IP54での洗浄水侵入
冒頭の食品工場の件。IP54では高圧洗浄に耐えられず。
食品環境はIP65以上、できればIP66。
ケース2:パッキン圧縮率不足
ドアパッキン圧縮率10%(カタログ推奨25%)で漏れ。
圧縮率はメーカー推奨を厳守、ドアロック数で圧縮を確保。
ケース3:ケーブルグランドのケーブル径ミス
φ10ケーブルにφ8〜12用グランドを使い、緩くて漏れ。
ケーブル径とグランド適合範囲を確認、中心値で選ぶ。
ケース4:パッキン経年劣化
EPDMパッキンを5年放置、硬化してシール性能低下。
ゴムパッキンは3〜5年で交換、図面のメンテナンス指示に明記。
試験と認証
試験設備
IP等級試験はJIS C 0920規定の試験条件で実施。
- IP5X/IP6X:粉塵試験チャンバ、タルク粉塵
- IPX5/IPX6:噴流ノズル、6.3〜12.5mm、12.5〜100L/分
- IPX7:水深1mに30分浸漬
- IPX8:メーカー指定条件(深さ、時間)
社内に試験設備を持つメーカーは少なく、認証機関(UL、TUV、JET)に依頼するのが普通。
認証マーク
- CEマーキング(欧州)
- UL認証(北米)
- IECEx(防爆)
- 日本JISマーク
おわりに
IP等級は世界共通の指標で、図面に「IP65」と書くだけで誰でも要求性能が伝わる。
逆に、IP等級を理解せず曖昧に書くと、現場で必ずトラブルになる。
20年やってきて感じるのは、設置環境を仕様調査で正確に把握することが最重要ということ。
「屋内」「屋外」だけでなく、洗浄方法、塵濃度、湿度、温度、薬品の有無まで確認する。
それなしにIP等級は決められない。
河村電器産業、日東工業、IDEC、オムロンなどのカタログには、IP等級別の標準品が網羅されている。
完全自社設計より、こうしたメーカー品を活用するほうが、信頼性とコストの両立ができる。
機械の防塵防滴は地味な仕事だが、ここを怠ると製品の信頼性が一気に崩れる。
若い設計者には、ぜひIEC 60529(JIS C 0920)を一読することを勧めたい。
たった数十ページの規格を読むだけで、防塵防滴設計の基礎が一気に頭に入る。
設計×現場ラボ|sekkei-tech.com
📚 このジャンルのまとめ: 【まとめ】機械要素部品ガイド——ねじ・軸受・歯車・シールを実務で選ぶための記事一覧



コメント