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防爆設計の基礎——耐圧防爆・本質安全・エリア区分

実務ノウハウ

はじめに

機械設計者として20年、外部設計事務所の立場で大手メーカーに常駐し、化学プラント周辺機器・搬送装置を多く設計してきた。

可燃性ガス・粉塵が存在する環境で電気機器を扱うとき、防爆設計を外すと法令違反かつ重大事故リスクになる。

若い頃、ある塗料工場の搬送設備設計で、防爆指定エリアに通常モータを取付ようとして、現地の安全担当から「労安法違反です」と差し戻された経験がある。

事前のエリア区分確認を怠ったのが原因。あれ以来、防爆エリアに踏み込む設計案件では、まずエリア区分図と防爆機器一覧を確認するようになった。

この記事では、耐圧防爆・本質安全・エリア区分という防爆設計の3つの基礎を、現場目線で整理する。

なぜ防爆設計が必要か

可燃性ガス・蒸気・粉塵が空気と混合した雰囲気では、電気火花や高温で爆発が起こりうる。

過去の重大事故(ヤミ工場の溶剤爆発、化学プラントの粉塵爆発)の多くは、通常電気機器を防爆エリアで使ったことが原因。

日本では労働安全衛生規則第280〜283条、第288条で防爆機器の使用が義務付けられている。

規制機関は厚生労働省、認証機関は産業安全技術協会(TIIS)、エクスナレッジ等。

エリア区分——危険場所の分類

防爆設計の第一歩は、設置場所がどの危険区分かを確認すること。

ガス・蒸気の危険場所

区分 内容 例
Zone 0(特別危険箇所) 通常時に爆発性雰囲気が存在 溶剤タンク内、配管内
Zone 1(第一類危険箇所) 通常状態で爆発性雰囲気が発生 充填エリア、溶剤回収
Zone 2(第二類危険箇所) 異常時のみ爆発性雰囲気 タンク周囲5m、配管接続部
非危険 爆発性雰囲気なし 一般工場

粉塵の危険場所

区分 内容 例
Zone 20 通常時に粉塵雰囲気あり 集塵機内部、サイロ内
Zone 21 通常時に粉塵雰囲気発生 充填口、ホッパー周囲
Zone 22 異常時のみ粉塵雰囲気 粉体プラント全体

エリア区分図

化学プラントや塗装工場ではエリア区分図が事業者により作成されている。

設計初期にこれを入手し、自分が設計する機器の設置位置がどのZoneかを確認するのが鉄則。

危険物質の分類——ガスグループと温度等級

防爆機器は、対象とする可燃物の特性で型式が変わる。

ガスグループ(IEC・国際基準)

グループ 例 最小着火エネルギー
IIA プロパン、メタン、ベンゼン 0.25mJ
IIB エチレン、シクロヘキサン 0.10mJ
IIC 水素、アセチレン 0.02mJ

数値が小さいほど着火しやすい。IICが最も厳しい。

温度等級

電気機器の表面温度上限。

等級 最大表面温度
T1 450℃
T2 300℃
T3 200℃
T4 135℃
T5 100℃
T6 85℃

可燃物の発火点より低い温度等級を選ぶ。

例:ガソリン(発火点300℃前後)→ T3以上、二硫化炭素(102℃)→ T5以上。

防爆表記の読み方

「Ex d IIB T4」のように表記。

  • Ex:防爆機器を示す
  • d:耐圧防爆構造
  • IIB:適用ガスグループ
  • T4:温度等級

防爆構造の種類

防爆構造には複数のタイプがあり、用途に応じて使い分ける。

主な防爆構造

記号 名称 原理 用途
d 耐圧防爆 内部爆発を容器が封じ込め モータ、スイッチ
e 安全増防爆 火花発生部位を持たない ターミナル、照明
i 本質安全防爆 火花のエネルギー制限 センサ、計装
p 内圧防爆 内部加圧で外気侵入防止 大型装置、制御盤
o 油入防爆 油中浸漬 旧型変圧器
q 砂入防爆 砂で囲い火花熱遮断 特殊機器
m モールド防爆 樹脂で密封 小型回路
n タイプn Zone 2専用、簡易 軽防爆機器

代表的なのはd(耐圧)、e(安全増)、i(本質安全)の3つ。

耐圧防爆(Ex d)——容器で封じ込める

原理

機器内部で爆発が起きても、外部の爆発性雰囲気に火炎・高温ガスを伝えないよう、頑丈な容器に封じ込める。

構造

  • 容器:鋳鉄、鋳鋼、アルミ(IIA, IIB対応)、ステンレス(IIC対応)
  • 接合面:フランジ間隙(フランジ幅と隙間で爆発を冷却消炎)
  • ガラス窓:強化ガラス、密閉
  • ケーブル:耐圧ケーブルグランド(Ex d)

代表機器

  • 防爆モータ:日立、東芝、富士電機、SEW Japan
  • 防爆スイッチ:山下電装、CEAG(クーパー社)
  • 防爆照明:CEAG、TRANSMET、岩崎電気

私の現場での使い方

化学プラントの撹拌機モータには東芝防爆モータ(Ex d IIB T4)を標準採用。

モータ自体は通常品の1.5〜2倍の価格、納期も2〜3か月かかるので、設計初期で発注計画する。

注意点

  • **接合面の傷・腐食NG**:消炎機能が失われる、定期点検必須
  • **温度等級の遵守**:周囲温度+負荷率で表面温度が変わる
  • **重量大**:通常モータの1.3〜1.5倍、架台強度に注意

本質安全防爆(Ex i)——電気エネルギーを制限する

原理

電気回路に流れるエネルギーを着火に必要な値以下に制限。

火花が出ても着火しないので、爆発エリアでも安全。

構造

  • 安全保持器(Zenerバリア、絶縁分離器)を非危険エリアに設置
  • 危険エリアにはセンサ、変換器のみ
  • ケーブルは専用ブルーケーブル(青色被覆)

種類

  • **ia**:Zone 0でも使用可(2重安全)
  • **ib**:Zone 1, 2で使用可(単一安全)
  • **ic**:Zone 2のみ(簡易)

代表機器

  • 計装用センサ(圧力、温度、流量):横河電機、エンドレス・ハウザー、横河ファ
  • 安全バリア:PHOENIX CONTACT、PEPPERL+FUCHS、横河
  • 通信機器:HART、Fieldbus、無線

私の現場での使い方

化学プラントのタンク液位センサ、圧力センサ、温度センサはほぼすべて本質安全防爆。

  • センサ:横河電機 EJX110A(差圧、Ex ia IIC T4)
  • バリア:PEPPERL+FUCHS K-System

本質安全の利点は、通常工具で点検でき、運転中の接続換えも安全なこと。

化学プラントの計装ループは本質安全が主流。

注意点

  • **配線インピーダンスの管理**:ケーブル長で安全余裕が変わる
  • **専用ケーブル必須**:青色被覆、他配線と物理分離
  • **接地分離**:危険エリア側を浮かせる

内圧防爆(Ex p)——大型装置に有効

原理

機器内部を不活性ガスや清浄空気で加圧し、外部の爆発性雰囲気が侵入しないようにする。

スタート時にパージ、運転中は常時加圧。

適用

  • 大型分析計
  • 防爆制御盤(多数の機器内蔵)
  • 防爆プログラマブルコントローラ

化学プラントの大型計装パネルでは、内圧防爆の制御盤に通常PLCを入れる構成がコスト的に有利。

メーカー:日本フィオダース、ニッタン

防爆設計の手順

20年やってきた経験から、実務手順を整理する。

ステップ1:エリア区分の確認

事業者からエリア区分図を入手。

自分の設計範囲がどのZoneにかかるか確認。

ステップ2:危険物質の特定

可燃ガス・蒸気・粉塵の種類、発火点、最小着火エネルギーを確認。

ガスグループと温度等級を決定。

ステップ3:防爆構造の選定

機器 推奨構造
モータ、ファン d(耐圧)またはe(安全増)
スイッチ、ボタン d、または ic
センサ、計装 i(本質安全)
照明 d、e
大型制御盤 p(内圧)
小型電子 m(モールド)

ステップ4:認証取得品の選定

防爆機器は必ず型式検定合格品(TIIS、KOSHA、ATEX、IECEx)を選ぶ。

カタログに防爆記号と検定番号が記載される。

ステップ5:配線・配管設計

  • 防爆ケーブルグランド使用
  • 配管シール(プラグドフィッティング)で炎の伝播を遮断
  • 接地・等電位ボンディング

ステップ6:認証・点検計画

  • 防爆エリア工事は防爆工事士資格者が施工
  • 定期点検(年1回以上)が労安法で義務

私が現場で痛い目を見た例

ケース1:エリア区分未確認

冒頭の塗料工場の件。Zone 1エリアに非防爆モータを設計し差戻し。

エリア区分図はプロジェクト最初に必ず入手。

ケース2:温度等級不適合

T4機器を、二硫化炭素(発火点102℃)取扱エリアに設計、T5以上が必要だった。

取扱物質の発火点を確認、温度等級は1段上を選ぶのが安全。

ケース3:本質安全のループ過長

センサとバリア間のケーブル長を見落とし、安全インピーダンス超過。

ケーブル長計算をメーカーシミュレータで事前確認。

ケース4:耐圧防爆の接合面破損

メンテで耐圧モータの端子箱フランジに傷をつけ、防爆性能失効。

接合面取扱注意、修繕は必ずメーカー対応。

認証と法規制

国内認証

  • 産業安全技術協会(TIIS):型式検定合格証
  • 労働安全衛生法、電気事業法
  • 工場立地法

国際認証

  • IECEx(IEC国際基準)
  • ATEX(欧州指令)
  • NEC500/505(北米)
  • KCs(韓国)、PESO(インド)

海外プラント向け設計では国際認証品を選ぶ必要がある。

国内TIIS品はそのままでは海外で使えない場合あり、メーカーに確認。

おわりに

防爆設計は専門性が高く、初めて踏み込むと壁の連続。

しかし基礎を押さえれば、エリア区分→危険物質→防爆構造→機器選定という流れで体系的に設計できる。

20年やってきて感じるのは、防爆案件では機器メーカーとの密な対話が成功の鍵ということ。

東芝、富士電機、CEAG、横河電機、エンドレス・ハウザー、PEPPERL+FUCHSなどの技術営業は防爆に詳しく、設計初期から相談すれば最適解を導いてくれる。

化学プラント、塗装工場、医薬・食品プラントなど、防爆を扱う業界は拡大している。

防爆設計ができる機械設計者は社内でも貴重な存在になれる。

労安規則と関連JIS(JIS C 60079)を一読し、TIISのカタログを手元に置いておくと、防爆案件で動じない設計者になれる。

設計×現場ラボ|sekkei-tech.com

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