はじめに
機械設計者として20年、外部設計事務所の立場で大手メーカーに常駐し、産業機械の設計をしてきた。
工場機械の騒音は労働環境・近隣対策・法規制の三方向から問題になり、設計者が初期段階で考えるべきテーマだ。
若い頃、ある汎用ブロワの架台に「とりあえずパンチング鋼板で穴あきカバー」をつけて出荷したら、現場で「うるさくて寝られない」とクレームになった経験がある。
吸音材を入れていなかったのが原因。穴あきカバーは音抜けが悪くなるだけで吸音効果はゼロという基本知識がなかった。
この記事では、吸音材・遮音材・dB計算という3つを軸に、機械の騒音対策設計を整理する。
騒音の基礎——dBとは何か
音圧レベル(SPL)
音の大きさはデシベル(dB)で表す。
基準音圧 20μPa(人の聞こえる最小音圧)に対する常用対数。
$$L_p = 20\log_{10}\frac{p}{p_0}$$
実用的な指標:
- 0dB:聴覚閾値
- 30dB:静かな図書館
- 60dB:通常会話
- 80dB:工場内・電車内
- 90dB:地下鉄構内
- 100dB:チェーンソー、ブロワ
- 120dB:ジェット機(耳痛)
dBの足し算
dBは対数尺度なので普通の足し算はできない。
同じ音圧の音源2つを足すと+3dB、10倍にすると+10dB。
| 音源数 | 増分 |
|---|---|
| 2倍 | +3dB |
| 4倍 | +6dB |
| 10倍 | +10dB |
| 100倍 | +20dB |
A特性(dBA)
人間の聴覚は周波数で感度が違う。
低音と高音は感度が低く、1〜5kHz付近が最も高い。
これを補正したのがA特性(dBA)で、実用の騒音計はdBA表示が標準。
距離減衰
点音源は距離2倍で-6dB、半自由空間(床上の音源)は-3dB/2倍距離。
例:1mで90dBの機械、10mでは70dB(点音源仮定)。
騒音規制と目標値
法規制
| 法令 | 規制値 |
|---|---|
| 騒音規制法 | 工場:朝60dB、昼70dB、夕60dB、夜50dB(住居地) |
| 労働安全衛生規則 | 90dB以上で耳栓義務、85dB以上で要管理 |
| ISO 11200番台 | 機械からの音圧測定方法 |
機械設計での目標
- 機械の表面音圧(操作位置):85dBA以下
- 工場内総合:75dBA以下
- 屋外周辺:境界線で60dBA以下(昼間)
これを達成するには発生源対策+伝達経路対策が必要。
吸音材——音を吸収する材料
原理
吸音材は多孔質構造で音波を内部に取り込み、繊維間の摩擦で熱エネルギーに変換する。
反射音を減らすのが目的。
種類
| 種類 | 材料 | 吸音域 | 用途 |
|---|---|---|---|
| グラスウール | ガラス繊維 | 中〜高音 | ボックス内貼り |
| ロックウール | 玄武岩繊維 | 中〜高音 | 耐火性、配管 |
| ポリエステルウール | 樹脂繊維 | 中〜高音 | 食品・クリーン |
| ウレタンフォーム | ポリウレタン | 中〜高音 | 軽量、加工性 |
| メラミンフォーム | メラミン樹脂 | 中〜高音 | 自己消火、軽量 |
吸音率
吸音性能は吸音率α(0〜1)で表す。
α=0.7なら入射音の70%を吸収。
| 吸音材 | 厚み | 250Hz | 500Hz | 1kHz | 2kHz |
|---|---|---|---|---|---|
| グラスウール 48K | 25mm | 0.30 | 0.65 | 0.85 | 0.95 |
| グラスウール 48K | 50mm | 0.65 | 0.90 | 0.95 | 0.95 |
| ウレタンフォーム | 25mm | 0.20 | 0.50 | 0.75 | 0.85 |
低周波音は厚みが必要、25mmでは200Hz以下はほぼ吸音できない。
メーカー
- **日東紡績**:グラスウールの代名詞
- **マグ・イゾベール**:マグ住宅用、産業用
- **ニチアス**:高耐熱断熱・吸音材
- **イノアックコーポレーション**:ウレタン
- **BASF**:メラミンフォーム(バソテクト)
私の現場での使い方
ブロワや圧縮機の防音カバー内側にグラスウール48K×50mmを貼るのが定番。
クリーン環境ではポリエステルウール、高温環境ではロックウール。
ある食品工場で粉砕機の防音カバー設計をしたとき、内側にポリエステルウール50mm+多孔ステンレス板で保護する仕様にした。
食品落下時の異物混入リスクなく、衛生洗浄も可能で重宝された。
遮音材——音を透過させない材料
原理
遮音材は密度が高く、音波を反射・遮断する。
質量則:透過損失TL ≒ 18log(m·f)−44(m:面密度kg/m²、f:周波数Hz)
重いほど、周波数が高いほど遮音できる。
種類
| 材料 | 面密度 | 透過損失(500Hz) |
|---|---|---|
| 鉛シート 1mm | 11kg/m² | 30dB |
| 鋼板 1.6mm | 12kg/m² | 30dB |
| 鋼板 3.2mm | 25kg/m² | 35dB |
| ALC 100mm | 70kg/m² | 40dB |
| コンクリート 150mm | 360kg/m² | 50dB |
遮音材の代表
- 鉛シート:薄くて重い、特殊用途
- 鋼板:定番、構造兼用
- ゴム-樹脂複合遮音材:イノアックの「カーム」、サンプラの「サウンドガード」
- 遮音マット:自動車内装、装置内貼り
注意点:穴・隙間は致命的
遮音性能は穴・隙間で大幅低下する。
1%の穴があるだけで、TLは10dB以上低下。
隙間ゼロが遮音設計の鉄則、ケーブル貫通部はパッキン処理必須。
防音カバーの設計手順
産業機械の代表的な騒音対策は防音カバー。
私が実務でやっている手順を整理する。
ステップ1:騒音源の周波数特性測定
リオン製NL-52、ONO SOKKI製LA-7100Aなどの精密騒音計でFFT分析。
周波数スペクトル(125Hz, 250Hz, 500Hz, 1kHz, 2kHz, 4kHz)を取る。
ステップ2:目標騒音レベルから必要遮音量を算出
例:機械音95dBA、目標85dBA、必要低減10dB
カバー遮音性能は20dB以上で安全側設計(複合反射、隙間漏れマージン)
ステップ3:構造選定
遮音層と吸音層の組み合わせ。
- 外殻:1.6〜3.2mm鋼板(遮音)
- 内貼り:グラスウール25〜50mm(吸音)
- 保護:パンチング鋼板(開口率30〜50%)
ステップ4:シール設計
- ドア合わせ面:EPDMパッキン圧縮
- 配管・ケーブル貫通:ゴムブッシング+シリコンコーキング
- 換気口:ダクト+消音ボックス
ステップ5:換気・冷却の確保
防音カバーは熱がこもる。
モータや軸受の許容温度を超えないよう、消音ボックス付き換気口を設ける。
ファンの騒音とトレードオフなので、低騒音ファン(パナソニックFY-32JE7等)を選定。
ステップ6:実機測定とチューニング
据付後、騒音計で5点測定し、設計目標達成を確認。
未達なら隙間漏れ・共振・吸音材追加で改善。
私が現場で痛い目を見た例
ケース1:穴あきカバーの誤解
冒頭のブロワの件。穴あきカバーを「通気と音抜きを兼ねて」と設計したら騒音増。
穴は音漏れの最大原因、通気が必要なら消音ボックス必須。
ケース2:低周波音の見落とし
大型コンプレッサで500Hz以上は対策したが、80Hzの脈動音が透過。
低周波音は重量+厚みでしか落とせない。鋼板3.2mm+グラスウール100mmに変更で解決。
ケース3:ケーブル貫通からの漏れ
防音カバーにケーブル通すゴムブッシュを規格より大きく開けて隙間。
1cm²の隙間で5〜10dB漏れ、シール材で確実に塞ぐ。
ケース4:換気不足で熱トラブル
防音重視で換気口を小さくしすぎ、モータ温度上昇でアラーム停止。
温度上昇と騒音は両立必要、開口面積と消音性能のバランス設計。
騒音対策の判断軸
軸①:騒音源で対策技術が変わる
- 機械的衝突音(プレス、ハンマー)→ 遮音重視、振動絶縁
- 流体音(ブロワ、ファン、配管)→ 消音器、サイレンサ
- 回転音(モータ、減速機)→ 防音カバー+制振
- 燃焼音(エンジン、バーナ)→ 消音器+遮音
軸②:周波数特性
- 高周波(>1kHz)→ 吸音材(薄でOK)
- 中周波(200〜1kHz)→ 吸音+遮音
- 低周波(<200Hz)→ 重量+厚み+防振、対策難
軸③:環境
- 工場屋内 → 防音カバー、消音ボックス
- 屋外 → 防音壁、緑地帯
- 住居近接 → 重防音、低騒音機種選定
騒音計と測定
私が現場で使う騒音計:
- **リオン NL-52**:精密騒音計、JIS C 1509-1 クラス1
- **ONO SOKKI LA-7100A**:周波数分析機能
- **B&K(ブリュエル・ケアー)**:海外規格対応、高機能
FFT分析機能付きなら、騒音源の周波数特性を分析できて対策の方針が立てやすい。
おわりに
騒音対策は地味だが、機械の社会的受容性を決める重要設計領域だ。
規制が年々厳しくなり、製品クレームの上位に常にランクインする。
20年やってきて感じるのは、騒音対策は最初から設計に組み込むのが最も低コストということ。
完成後に対策すると、防音カバーの後付け、配管変更、機械の置換えで数倍のコストがかかる。
機械設計の初期段階で騒音目標を決め、構造に織り込む——これがプロの仕事だ。
リオンやONO SOKKIの騒音計、日東紡やニチアスの吸音材カタログを手元に置くと、設計判断が一段精密になる。
若い設計者には、ぜひ一度自社の機械を実測してほしい。
「数字で見る騒音」は、想像とまったく違う世界が見えてくる。
設計×現場ラボ|sekkei-tech.com



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